昼間、ジョン・ヒューストンの『ザ・デッド/「ダブリン市民」より Gens de Dublin / The Dead』を見に行く。ジェイムズ・ジョイスの短編を最晩年に映画化したもので、とても謙虚に室内のパーティー映画としてまとめられており、時間も90分以内。そこにまず驚くと共に、何しろ徹頭徹尾雪が降り続けていることが素晴らしく、町の静けさとパーティーの密室性を引き立てていて、詩情が高まる。終映後、言葉がわからなかったため近くの本屋で原作を探したら、バイリンガルの『The Dead』が文庫で売っていたので購入(もちろん英/仏のバイリンガルだが)。
4/8 語学、仕事、翌日のレセプションのための準備。 夕方、ジョン・ヒューストンの『ロイ・ビーン Juge et Hors-la-loi / The Life and Times of Judge Roy Bean』(1972)を見に行くが、フランス語吹替え版で面食らった。セリフ全然わからなくても面白かったが。脚本ジョン・ミリアスか。確かに後半ダレてそれこそ大乱闘でもしなけりゃ終わらせられなかったかもしれないが、ラスト燃える建物の中に乗馬したまま二階に登ったロイ・ビーンがテラスで娘に姿を見せるところ、泣ける。ハリウッドの古豪がニューシネマに寄ろうとしてなりきれず、頑固なじじいの死に様を見せつけるヒューストンの人生そのものに見える。
4/9 昼から新入居者のレセプション。総合ディレクター(多分一番偉い人)より、ここの「良い住人」になる方法は無いので、皆思い思いのしたいことをするべし、それが「良い住人」だ、とのお言葉。積極的に外に出るべし、とも。 その後は昼食会で、日本人の方々数人と、海外の方数人と友達になった。話してたら古堅さんの友人がいて驚く。世の中狭い。お開きの後、他の人たちの部屋をグランドツアーするが、知らなかった建物もあって、部屋の構造もまちまち。うちの部屋が一番シンプルに絵画用にできてるな、と感じる。 夕方、再びヒューストンの『パナマの死角 Griffes Jaunes / Across the Pacific』(1942)。太平洋を超えて横浜に行って日本の陰謀を阻止する話だと思ってたら、なぜかニューヨークに行ってそこからパナマに行くというよくわからないことになっていたが(だってPacificって書いてあるんだもん)、でも最終的にはヒロヒトの陰謀を阻止する話になっていた。モンタージュはドン・シーゲルってどういう意味だろう。ハンフリー・ボガードって小さいのね。「ビンボウヒマナシ、カネモチヒマアリ」。
昼間にちょっと行ってついでに買い物して帰ってこようと思っていた映画館が、行ってみたら見当違いだったためにリュクサンブール公園近辺を一周することになり、結果クリュニーで大島の『戦場のメリークリスマス FURYO』とベルトルッチの『革命前夜 Prima della rivoluzione』を見ることとなった。『戦メリ』会場では隣で並んでいたフランス人のおばあさんに話しかけられ、私は小津、成瀬が大好きで、最近は山田洋次の『小さいおうち』がよかったわ、今は谷崎を読んでいるの、とフランス語版の谷崎の本を差し出された。「それはエロティックですね」と答えそうになったが、やめておいた。小津、成瀬と山田を一緒にするなよとは言いたかったが。
フランスに長期滞在するためにはビザだけではなく滞在許可証(Carte de Sejour)を申請しなければいけないのだが、これを申請するためにはまず大使館でもらった書式の残り半分を埋め、書留(配達通知郵便)で送らなければいけない。インターネットで調べたところ、配達通知は「Lettre Recommandé avec avis de Réception」といい、郵便局の窓口で頼めば伝票をくれるとのこと。さっそく9時過ぎから橋を渡ってサン=ルイ島の最寄りの郵便局に行ってみるが、土曜日は10時からとのことでまだ閉まっていた。部屋に戻るのもあれなので、島を半周する。この辺のことを全然知らないのだが、何かこだわりのありそうな店が多い雰囲気で、観光客らしき人たちが群がっていた。純粋散歩ができる余裕ができたら行ってみたい。郵便局に帰ってみると開いていて、フランス語しか喋れなさそうなおじさんとおばさんに片言で尋ねながら、なんとか送れたらしい。めんどくさそうな顔をしていたおじさんの顔が急ににこやかになる。この国の人たちは、注文や質問をした時はつっけんどんだが、会計の後や問題が解決した時はとてもフレンドリーになるような気がする。
必要なものを買い足したいのだけれど、とりあえず散策がてら左岸へ渡る。サン=ニコラ・デュ・シャルドネ教会(Église Saint-Nicolas du Chardonnet)に立ち寄ってみるとミサの最中で、観光客で申し訳ないがしばらく座ってミサを聞く。かなりアンプリファイされていた。近くで市場が立っていたので、買い方がよくわからないながら、周りの真似をしてあれこれ買ってみる。要領がわからないのでついつい買いすぎてしまい結構高くついたが、私的にはこんなに楽しいことはない。近所でフランス語のレシピ本も買い、とりあえず一回帰る。