『本が湧きだす』書評

杉浦康平著『本が湧きだす』(工作舎 2022)の書評を「週刊読書人」2月10日号に寄稿致しました。杉浦先生の本を四回りも下の私なんぞが評する能力があるのかと苦悶しながら書きました。

[3476]2023年2月10日号 データ版

字数が限られているのでやむなく端折りましたが、私は学生時代の一時期、杉浦先生の関わられた仕事を片っ端から調べて年表に書き起こし、図書館で見られるものは全て見る、という時間を過ごしました。しかしながら、杉浦先生の真似をしても先生のようにうまくはできないと悟り、影響下から離れようとすることからしか自分のデザインを始められませんでした。なのでここ最近の御著書は意識的に読まないようにしており、今回の話をいただいてようやく読む覚悟を決めたという次第です。ヨーロッパでフンボルトを研究してようやく自分なりの成果を出せたと思って帰ってきましたが、今改めて杉浦先生の著作群を拝読したところ、先生の共著者でもある岩田慶治氏の研究がまさにフンボルトから始まり、「フンボルトの試みはたいへんよいところまでいった」が不十分であった、という結論に至り、そこからアジアを見つめ直していったいう経緯を初めて知りました。杉浦先生はそのことを当然承知で、フンボルトから一足飛びにアジアの図像研究をされていたわけで、結局は先生の掌から一歩も飛び出していなかったのだな、と改めて思う次第です。