1/15(金)
昼から図書館。行きがけに雹が降ってきた。まあ私が外出したから降ったのですが。今年はまだ雪が降らない。降ったらヴェルサイユに行こうと待ち構えているのに、なかなか降らず。チャンスはあるのか。
図書館で書き物をしていたら館内が冷えてきたので早めに外に出て久しぶりに日を浴びる。パレ・ロワイヤルからパンテオンあたりを通ってリュクサンブール公園まで歩き、書き物の続きをしようと思って公園内のカフェなんてものに腰掛けたら10分で閉園の時間になってしまい、追い出された。しょうがなく家に帰る。
晩飯は二日連続お好み焼き。キャベツが異常な弾力を見せる。二日でお好み焼きソース使い尽くす。もうしばらくいい。
1/16(土)
病床でずっと読んでいたブヴィエ『L’usage du monde(世界の使い方)』をとりあえず邦訳で読み切る。私にはこんな根性はないのは言うまでもないが、故障した車をエンジンまでバラバラに解体して再び組み立て直しながら悪路を進むということは自分の車によく親しんでいなければ不可能だし、ここまで自分が見たもの・体験したことを客観的に描写しつつ、読者に想像力を動員させる言葉でほのめかしたりするなんていう芸当は、余程の能力がないとできないことだ。私の知り合ったスイス人逹も皆落ち着いていて、洞察力が高く、独立していて、自らで何かを組み立てようとする意思に満ちている。自分を含めた全体を客観的な視点で見ていて、しかし決して冷たいわけではなく懐に飛び込むと親しく話してくれる。個人的にはそんなスイス人への思いさえ抱かせる。スイスはまた(金のある時に)訪ねたい。ところでタイトルの「usage」というのはやはり翻訳不能で含みの多い言葉である。本文を読んでもはっきりはしない。使い方、説明書、活用法、活用すること……フラ語の先生が「タイトルも天才的!」とか言っていた気がするが、なぜだったかは忘れてしまった。今度ニュアンスを聞いてみよう。
昼は最近友人に教えてもらった、トイレが有名な近所のビストロで昼飯。仔牛のマレンゴ風ソテー、アンディーブとリングイネ添え。ささっと出てきてささっと食べられ、立地の割には値段もそこそこ。リングイネはなぜか普通のスパゲティも混入していて、作り置きののびのびだったが付け合わせなのでまあ許す。特別ではないが、飯作るの面倒な時とかパリっぽいもの求めてくる友人連れてく時なんかに重宝しそう。何しろこの辺にはうまいものなんか皆無なので、マルシェで質の良い食材買ってきて自分で作ったほうが値段も味も良いし何より創造的なのだ。だから私のところに訪ねてきて「近所でおいしいところどこ?」と聞くのはやめてください。近所には無い。皆無。尚ビストロなんてものはもう存在せず、「ビストロ」と名乗っているのは過去にあったビストロというものを冠したカフェかレストランであるとのこと。ここもまあビストロっぽい飯が出てくるだけで、あとは雰囲気である。
その後、ソルド(セール)で自分の靴を買いに行ったつもりが妻が靴を買い、自分はなぜかワインをぶらさげて帰ってきた。おかしい。
晩飯はポティマロンをくり抜いてベーコンとか玉ねぎとかチーズとか放り込んでオーブンで焼いた謎の料理。いつも買ってはどうしたらいいか思いつかず一週間ぐらい放置されるのだが、なぜか買ってしまうこの形。嫌いじゃない。
1/17(日)
午前中、マルシェ。異常に寒い。0度近い。ここ数ヶ月ホタテがうまそうだなあと思いつつ、高くつきそうなのでいつも躊躇していたが、今回も。次回こそ勇気を出して買ってみよう(まあ、でもホタテだろうが)。それにしてもホタテがサン・ジャックと呼ばれるのはサン・ジャック・ド・コンポステル巡礼に使われるようになってからだというのはまあそんなもんかと思って理解できるが、今日は見かけたサン・ピエールという名の魚はシャクレていて背から角のようなトゲのようなヒレが出ている。こんな魚に聖人の名前つけていいんかい、とフランス人を問い詰めたくなる見た目であった。日本ではマトウダイというらしく、脇腹にある的のような大きな斑点がサン・ピエールの指紋に見立てられたとか。ゼウス属に属していて(フランス語ではズース)、こちらはなぜだか知らないがなんだか大層な名前の魚である。あまり食べてみようとも思わないが……。
昼過ぎからプティパレに最終日の「ファンタスティック!国芳」展と「ファンタスティック!幻視的版画 ゴヤからルドンまで」展へ。何がファンタスティック!なのか知らないが、国芳は凄かった。どこのコレクションなのか大部分は明記されていなかったが、主に日本からの巡回パッケージで、それにモネとロダンの所蔵品、パリ市立系文化施設の所蔵品等を足したものではなかったかと思う(混みすぎてて全ては確認できず)。悪いけどこの絵のダイナミズムと刷りの技術の後ではゴヤもルドンもドレもメリヨンも霞んでしまって……。いやデューラーの『メランコリー』は見入ってしまったけど。国芳の圧倒的勝利でございます。個人的には達磨が蕎麦を食ってるやつの本物が観れて嬉しかった。いつもトイレに貼ってあった蕎麦錦絵カレンダーで観ていたので。
晩飯は明日の食事会用に買ったタイのアラで潮汁。といってももちろんマダイではない。今までタイの代用品として買っていた「Daurade Royale =王様鯛」(ヨーロッパヘダイ。黒いやつ)ではなく、最近見つけた赤い「Daurade Rose =バラ色鯛」(または Pageot)というのを買ってみた。日本ではスペインダイというらしい。見た目はかなりマダイっぽいがやはり形も色も少し違う。そして狂気を感じるぐらい骨が硬い。それでも潮汁は美味しかった。あとは顔が尖り気味の「Daurade grise =灰色鯛」というのも売っていた。