ライプツィヒ滞在は正味1日しかないのであるが、レクラム文庫があることでも有名な書物の街ということで、印刷博物館と国立図書館のギャラリーに行くことにする。印刷博物館「Museum für Druckkunst」の「Druck」は印刷なので、印刷芸術博物館ということになるだろうか。とても良い言葉である。中央駅からは白エルスター川というチェコから流れる水系の川を越えて行くのだが、河岸は公園になっていてとても雰囲気が良い。
ここの印刷博物館は今までと毛色がまた全然違って、活版印刷機からモノタイプや写植まで大小さまざまな実機が展示している部屋で常時何人かの職人さんがウロウロしており、声をかけるとあれやこれや実演してくれるのである。活版ぐらいならよく見かける風景だが、母型からの活字の鋳造、ライノタイプによる鋳造にモノタイプのパンチカードへのセッティングと鋳造機の実演、Diatype(ダイアタイプとお読みすればよろしいのか)やモノタイプの写植機(モノフォト)など、ここに展示してあるもの全部動くんかい!と突っ込みたくなるぐらい豊富な機械を動かしてくれるのである。いやはや、美術が束になったってこの印刷イノベーション1台に敵わないんじゃないかと思ってしまう。ライノタイプが動いてるところなんて感動しちゃうよね……。銅版で刷られたグーテンベルクの肖像に「ハイル・グーテンベルク」って書かれているのには笑ってしまったけど。職人さん達も気さくで素敵だった。ドイツ語わからなくてごめんなさい。
そのあとアーティスト(志望)のOさむさんのリクエストでSpinnerei(シュピネライ)という旧紡績工場が現代アートの芸術家村として生まれ変わったという場所に。作品よりその辺の印刷工場より広い印刷工房が気になった。
もう夕方近かったが、一応行っておこうぐらいの気持ちでドイツ国立図書館へ。ドイツの国立図書館と呼ばれる場所はライプツィヒ、フランクフルト、ベルリンの3カ所にあって、一般的な国立図書館と違ってそもそも書籍商組合が立ち上げたライプツィヒの図書館が国立図書館となり、1913年以降のドイツの書物を全て集める納品図書館として機能。東西ドイツ分断後にフランクフルトに西ドイツの図書館ができ、またベルリンにも東ドイツの音楽図書館が出来て、それがドイツ統一時に国立図書館として合併したらしい。利用者カードを取ろうかとも思ったけれど、経緯が複雑でどこに何があるかイマイチわからないし、ウェブページの利用方法の説明もあまり詳細ではないのでよくわからず、フランスの国立図書館でこと足りそうなのでギャラリーに寄ってみるだけにした。
しかしこのギャラリーがまたなかなか凄い。Deutsches Buch- und Schriftmuseumはドイツ書物・文字博物館といったところなのだが、そこまでクリティカルではないもののちゃんとライティングスペースの歴史になっていて、マニュスクリプトからインキュナブラ、それにウィリアム・モリスやコブデン=サンダースン、ライプツィヒのDruck der Janus-Presse、ミュンヘンのBremer Presseなどのプライベート・プレスの数々、リシツキーやチヒョルト。嫌だなあ、こういうのを実物でさらっと常設展示しちゃうんだもんなあ。ユニークなのは第三帝国によって回収された図書のリストがあったり、アルファベット教育や図像教育の歴史のコーナーがあってそこにちゃんとノイラートの『社会と経済』が展示されていたり(偉い!)。特別展は1914年のライプツィヒ国際書籍業・印刷博覧会(Internationale Ausstellung für Buchgewerbe und Graphik どこかに訳の通例があるはずだが見あたらず)の100周年展示。出品物は今や目新しいものでもなくなっているけれど、どこもが第一次世界大戦の100年特集をやっている中でこれをやっているのはやはり意識が高い。
ドイツのお姉ちゃんと一緒にライノタイプ他の実演を見せてもらった。ダンケシェーン。