4/28 フンボルトを辿って

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朝、Oさむさんの薦めで骨董市に行ってみるが、本当にゴミしか売っていなくて退散。昼にペルガモン博物館に行こうとするが既に長蛇の列で、博物館島を見捨てて自然史博物館 Museum für Naturkundeに向かう。ベルリンに来た理由の一つがこの博物館で、アレクサンダー・フォン・フンボルトの遺したものを拝見かなえば、という気持ちだった。あわよくばその先のヒントも。
途中、ウンター・デン・リンデンでフンボルト大学の前を通る。門の外には言語学者の兄フンボルトと弟フンボルト(言わずもがな博物学者・地理学者)の石像、前庭には物理学者ヘルムホルツの石像と、割と新しめのマックス・プランク(量子論)の石像がある。中に入れないのがもどかしいが、私にしてみれば残り香をかげるだけでありがたい。歩いていると別の研究棟があり、フンボルト兄弟の横顔をあしらった大学のシンボルマークが描かれていて、このバッジがあったら買う、という確信を得る。
数十分歩くと自然史博物館に到着。ガイドブックにはブラキオサウルスの化石で有名としか書いていないが、確かにブラキオサウルスは凄い。フランスの古生物館にも無かった巨大な骨の立像が天井を突き破らんかの勢いで立っているのは圧巻である。事実、このために天井を拡張したとか。しかしここの凄さはそれに止まらない。ここはやはりフンボルト大先生の『コスモス』の思想を充分に受け継いでおり、生物学だけでなくこの地球、引いては宇宙がどのように形成されているか、ということが地質学、プレートテクトニクス、天文学、進化論、種の分類、鉱物学の観点から様々に語られ、つまり一つの体型としての「コスモス」を形成する様々な科学的アプローチが博物館の構造そのものとなっているのだ。そしてそれらの根底にあるフィジカルな博物学的探険を思うと、これらを成し遂げてきた人達の器の大きさを尊敬して止まないのである。まさに立体博物図譜。オブジェ版コスモスである。事実、博物図譜のページを実物にして壁一面に展開したかのようなメイン・ディスプレイがそれを物語っているし、何しろここは剥製や模型が凄い。鳥なら鳥を単に剥製にするだけじゃなく、ちゃんと生態を再現するように巣の作り方や産卵の仕方、そして高度別に住み分けていることを同じ木の中で視覚化しているのである。あの鳥類図譜の描き方そのものが立体として表現されているのだ。しかもこれがいちいち格好良い。剥製の作り方やそのアーカイブの仕方までご丁寧に説明してくれて、教育にも熱心。日本だって美大生がこれほどいるのだからここまでやれてもいいはずなのだけれど、そもそも科学的視覚化という認識が美術の領域として認識されていない。というか、これほどに科学のために視覚化を工夫すれば、美術としても素晴らしいものになる、という到達点が認識されていないのではないか。これは本当は視覚伝達デザインの分野のはず。ハーバート・バイヤーの『WORLD GEOGRAPHIC ATLAS』はこういう科学的視覚化の系譜の末端として位置づけられて然るべきもので、ただ単に「これが世界で一番美しいデザインだ」と呪文のように繰り返しつぶやけばいいものではないと思う。はっきり言って、一般に出回っているグラフィックデザインの歴史には科学的視覚化の概念が全く抜けている。単なる格好良さとか目新しさとか、自分を作家として売り出すことよりも大事なことがここにはあると思う。ただしこれでも2階以上は改装中で、ほとんど見られず。ガラス戸からは大量の標本キャビネットが垣間見え、改装が終わる日が待ち遠しい。ここに自由に入れるのだったら人生捧げてもいい、とちょっと思った。
いつも思うのだけれど、周りにいる生き物好き女子や古代の謎好き男子、音楽好きの諸兄や、数学と電気と野菜が好きなおじさんと一緒に来たらもっと楽しいだろうなあ。

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でも一番驚いたのは館長のヒゲだったりする。