オリヴェイラ2025 その2

もう見てから長い月日が経ってしまったので記憶も定かではなくなってしまったのだが、久しぶりにスクリーンで見たオリヴェイラの『アブラハム渓谷』はやはり恐ろしい映画だった。狂言回しや「第四の壁」の破壊もなく、「本気で撮った大人の劇映画を見せたろかい」と言わんばかりのオリヴェイラ御歳85歳。それでもわざとらしい不自然なつなぎや、原作の物語をナレーションで語った後に、同じ内容のシーンをヴィジュアルで見せる基本構造など、随所に映画の確からしさを揺さぶる仕掛けが散りばめられている。
今回見直して素晴らしいと感じたのは風景のロングショット。並の映画ならば芒洋になるところが、スクリーンのサイズでまさに映るべきものが映っていると感じられるフレーミングで、渓谷の中に佇む邸宅という名の監獄を映し出していく。
やはり圧巻なのは、聾唖の洗濯女を演じるイザベル・ルト。もう本物の洗濯女にしか見えないような洗濯ぶりで、一言も発さないのにあの存在感たるや。オリヴェイラのヒロインらしく天真爛漫なレオノール・シルヴェイラと好対照である。
願うならば、『ノン』『神曲』『階段通りの人々』あたりをまた劇場でかけていただきたい。