9月22日 成田発ブリュッセル着

空の旅というのは豊富な視覚的体験に満ちているのではなかろうか。入出国のX線検査に始まり、あの「雲」と呼ばれる、触感がありそうでなさそうなものを眼下に見ることができる時、人は、地図、写真、映像を抜きにした、本当の鳥瞰的な特権的観察点に立つ。雲の合間に広がるロシア北西部の湿地らしき異様な地表の中に、点々とした家屋らしきものが見える時。グレート・ブリテン島の上空に広がる、絨毯のような雲を目にした時。自らと太陽の間に地球を置いたときに見える「夜」という名の影が地表に広がり、その中に人が作ったいくつもの光の連なりを目にした時。地表と空を隔てているグラデーションの断絶を目にした時——人は自らを乗せて移動する「飛行機」という発明品が、単なる移動を可能にしているだけではなく、未知なるものの体験を可能にしていることを理解する。そして一瞬、自分は過去の権力者よりも最も高い位置に立っているのではないか、と思いたくはなるが、自らよりもはるか高い位置、いや、「高さ」といった概念が地球の引力を前提としているが、あの「宇宙」といったどこでもない場所に観察点を持つことのできる人々が存在することを思い出す。しかしそれにしてもこの視覚的体験は他にないものだ。宮崎駿でさえも描ききれていないと呟きたくもなる。
などとあれこれ思索を巡らしているうちにLondonはHeathrowに着き、乗り換えてBruxelles Aéroportに到着。三度も食事が出た。今回は久しぶりに、着陸に伴う高度低下による頭痛が出た。サイパン以来。食べ過ぎると良くないのか?
空港からはゲント行きの電車に乗り、北駅(Bruxelles Nord)へ。ホテルのある北駅の西側はもともと治安が悪かったらしいが、World Trade Centerなどで再開発されているため綺麗になっているが、代わりに何も無かった。ホテルでビールを飲んで寝る。