本厄の終わり

12/26
封切りから一ヶ月近く経ってしまったデヴィッド・ロウリー監督『グリーン・ナイト』を見に日比谷へ。「シャンテシネ」から「TOHOシネマズ」に変わって初めて来た気がする。
中世の騎士道物語『サー・ガウェインと緑の騎士』をベースにし、アーサー王の前に突然現れた「緑の騎士」と、ガウェイン卿との《首切りゲーム》を描いた物語。ガウェイン卿がひたすらヘタレで、盗賊にコロっと騙されて身包み剥がされたり、故郷に置いてきた恋人そっくりの人妻に誘惑されたりと、ダメダメなところを描き続けるあたりが現代的というべきか。中世イングランドにもかかわらず主役が明らかにインド系の顔立ち(『スラムドッグ・ミリオネア』の彼らしい)なのもあまり違和感はなかった。偶然にもクリスマスの話で、過ぎてはいるが良い日に見に来られた。昨今のタイプフェイス復刻ブームの成果もみられる一本。

12/27
朝からZoomミーティング三連チャンのあと、アマプラで三宅唱監督『密使と番人』を見る。スコリモフスキの『エッセンシャル・キリング』よろしく、ひたすら山道を歩き続けるだけで映画になる。音楽のせいかこちらの聴覚も研ぎ澄まされる。身の丈ほども伸びたススキを掻き分けながら進むと、穂からこぼれた種が画面いっぱいに舞い、それに見惚れているうちに雪が舞い始める。

12/28
渋谷まで繰り出してジャン・ルノワール『黄金の馬車』。メリメの『サン・サクルマンの四輪馬車』という戯曲を下敷きにしているそうなのだが、実在のペルーの舞台女優がモデルとなっていたところを、イタリアの旅芸人一座(コメディア・デラルテ)の看板女優の話へと翻案し、南部イタリアの女性の象徴アンナ・マニャーニを主役に迎えたルノワールの意欲作。オープニング・クレジットの後、劇場の幕が開き、階段を中心に据えて上下階の空間を作り出した舞台上へと徐々にキャメラが寄っていくことで映画へと入っていく。オリヴェイラの『フランシスカ』(’81)の下敷きはここかと思われるが、映画内で上演される舞台という形式を自分が偏愛していることに気付かされる。しかしそんな知的な構造を採用してもルノワールの手にかかれば全くインテリ臭くなくなり、《la joie de vivre(生きる喜び)》を始終感じさせる103分間。説明不足の台詞があったりするが、それでも十分に人間の豊かさを取り戻させてくれる。21世紀に必要な映画。

12/29
2日連続渋谷でジャック・ベッケル『エストラパード街』。亭主に浮気された金持ちの女性が、ふてくされてパンテオン近くの安アパルトマンで一人暮らしを始めるが、同じ階に住む売れない歌手や、就職相談先のファッションデザイナーに言い寄られた果てに、結局夫とヨリを戻すという話。正直どうでもいい与太話なのだが、肉体的魅力をふりまくアンヌ・ヴェルノンの天真爛漫さと、テンポ良い台詞回し、旦那と家政婦役のパクレットの滑稽なやりとりですんなり見られてしまう(朝から赤ワイン飲むのね)。交通事故を機にヨリを戻すという演出が絶妙。
続けてルノワール『南部の人』。アメリカに渡り、これまでとは違うスタイルを作り出そうとしても、変わらぬ人間への眼差しが滲み出てしまう紛れもないルノワール映画。小川を撮らせたら天下一品である。しかし最終的に牛さんは助けられたのだろうか。

12/30
zoomで学生と面談して、その後仕事納め。

12/31
千葉へ。「紅白歌合戦」が流れているので見る。NHKの迎合ぶりが止まらないが、氷川きよしだけは素晴らしかった。