8/20 チューリヒへ

出発1時間前に仕事が終わり、パッキングは全て人任せにしてなんとかチューリヒ行き7時半の列車に乗り込む。車中では夜中の作業の覚醒状態が続いてあまり眠れず。バーゼルを過ぎると駅の風景は途端にフランスの流線形好み(なのかただユルいだけなのか)からカッチリとしたドイツ寄り(というべきかスイス的と言うべきか、私がスイスより先にドイツに来たことがあるというだけだが)のデザインとなり、書体はヘルベチカ系のグロテスク体一色、時計はMondaine、時刻表から何からちゃんとデザインされていて、ああ、そうだったよね、と安堵感に包まれる。

そうこうしているうちに出発から4時間経ち、チューリヒ駅に着いたが、「駅で」としか待ち合わせ場所を決めていなかった友人Mと無事にホームで落ち合うことができた。パリの寮でフランス語教室に最初に行った時から一緒だったが、3ヶ月後に先に帰ってしまった彼女は私にとって「スイスの母」であり、勝手に親近感を覚えていた。今回リヨン、マルセイユ方面への旅を考えていたところ彼女の展覧会がチューリヒであるとのことで、ちょうどよい機会だしスイスには足を踏み入れたことがなかったので今回やってきたのだった。駅のカフェで四方山話をし、中央駅からトラムでたった2、3駅の彼女のアトリエ兼住居まで案内してもらった。日本から妻が持ってきたお茶やら匂い袋やら折り紙やらをお土産に渡す。家にブロイヤーの「ワシリー・チェア」があったが、「買ったんだけど長時間座ると疲れるからあんまり座ってない」とのこと。しかし駅からトラムで数駅のアトリエを借りるなんて、家賃はどうなっているのか。

今日のオープニングのために準備があるMは買い出しに行くため、彼女と別れて我々はひとまずホテルに向かい、チェックインをする。トラム周りの券売機、路線図、電光掲示板、車両、社内モニタ、何から何までとにかく快適。しかし物価の高さだけは如何ともし難く、あらゆる物が2倍以上の物価である。着いてとりあえず食べた物は二大大手スーパー COOP のサンドイッチとマカロニサラダで、しかも金がないので二等分、であるが、このマカロニサラダが食べてるうちになんだかピリピリしてきて体が拒絶し始める。何が入っていたんだ。

少し時間があるので中央駅までトラムで行き、最も観光客の多いであろう道を歩き、キャバレー・ヴォルテール(中身はショップとバー?)でダダ・マップなるものを入手。その後大聖堂(Grossmünster)にてジャコメッティのステンドグラスおよび最近の芸術家が作ったステンドグラスを見て、Mの展示するギャラリーに向かう。パリで作った展示物+αで構成されていて、大方は見たことがあるものであったが、空間が違えば見え方も意味も全く違って、彼女の悪戯心が随所に仕掛けられた展示であった。まだこちらに来て1日だが、今あるものに少し手を加えて微笑ましいものにする軽やかな感覚がこの街にはあるような印象を受けた。

徹夜で疲れていたので今日は早めに帰ることにして、ギャラリーをおいとまする。帰り道に古本屋を見つけて、帰るわけもなくぶらぶらしたが、ところ変われば本屋も変わるわけで、地方の地図やらドイツ語圏の文庫本やら(インゼルの他に地元の出版社多し)、金があったら買い占めたい。

帰り、スーパーに行くために降りたトラム駅で山の手に上がっていく登山(登坂?)鉄道を発見。山に囲まれた立地といい、海ではないが湖畔にある街といい、坂道だらけのところをトラムが通っているところといい、どこか長崎に似ている。