4/15 ルーベンス、プランタン、メルカトル

寒風吹きすさぶアントワープ。古都というイメージがあるが、それは一部のことで、泊まっているエリアはせいぜいここ5、60年ぐらいの建物だろう。街の中心は駅の反対側であり、こっちは何も無い。レストランすらなく、唯一近くにあるのが大手スーパー「DELHAIZE」とケバブ屋(出た!)という悲しいエリア。今朝も朝・昼食をどうしようかと歩き回っていたらビジネスセンターみたいなところにパンカフェがあったのでチョコパンとコーヒーで済ます(よく考えたら1000円ぐらいしてるけど見ないふり)。
駅で「シティ・カード」というお得な観光パスを買う。市内の美術館や教会のほとんどが1回だけ無料になるパスで、最初の施設の利用時から起算して24時間、48時間、72時間の3つの選択肢があり、私は48時間にした。昼から見始めれば2日後の昼まで見られるのは嬉しい。
それでガンガン回る気だったのだけれど、午前中はルーベンスの家で潰れ、午後は丸ごとプランタン・モレトゥスで潰れてしまった。ルーベンスはヨーロッパを回っていると本当にどこにでもあるし多くは弟子が描いているということなので価値が薄れてしまっているが、アントワープに来てみると、町中の教会や施設がルーベンスなしには成り立たなかったことがわかる。それほどルーベンスおよびルーベンス工房が社会的存在として重要だったことを考えれば、絵画的価値そのものを超えてルーベンスを評価することも可能だろう。父ブリューゲルやプランタンとの関わりから、アントワープにおけるある特異な時代が浮き上がってくる。
それで、プランタン・モレトゥス。もうこれが凄いったらなんの。まさにこの部屋で・こんな書物が・この活字によって・この印刷機で刷られた・しかもイラストレーションはこの銅版で・え、こっちは木版なの!?というのが全部実物でわかるわけですよ。そしてギャラモンやグランジョンの数少ないパンチが残ってる!もうアホになるんじゃないかってぐらいオリジンだらけで夢の国です。クリストフ・プランタンの作った書物の美しさと面白さといったら、過去の事例から勝手に「規則」を作り上げて「アレダメ」「コレダメ」のピラミッドを作り上げることがタイポグラフィーだと思ってる方々のご高説を頭から覆すような実験・工夫の数々。タイポグラフィーに興味の無い人こそ見て欲しいなあ。
しかも、し・か・もですよ。ここは印刷の歴史だけじゃなくてメルカトルやオルテリウス、フリシウスといった地理学・地図学の偉人達のホンモノのアトラスが見られるわけです(「アトラス」って最初に付けたのはメルカトルですよ!)。こんなの社会の教科書でも美術の教科書でも全く教えてくれなかったですからね。アントワープの土地を舞台にいろんな切り口で世界史が語れるというのに。ルネッサンス・フラマンド。ああ、胸のつかえが下りる。しかしオリジナルのギャラモンは美しいなあ……。ある部屋で流れてた当時の印刷を再現してる映像がなかなかケッサク。みんなコスプレしてやってるんだもの。どうしたって笑っちゃうよ。
まだ陽が高いのに17時になってしまい、周辺の教会やら何やらが閉まってしまったので、しょうがなくとぼとぼ帰ることに。日が沈むのは20時過ぎてから。この感じに全然慣れない。

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4/14 アントワープへ

今日はパリからタリスという新幹線みたいなものに乗ってアントワープに移動する。約2時間。切符はネットで予約して、駅のSNCF(フランス国鉄)の端末でプリントアウトできた。
途中、検札に来た車掌が「隣の女の子と後ろの女の子が連れ立ちみたいだから席変わってあげてくれないか」と言ってきたので、いいよと言って変わってみると、隣の席はビール片手に酔っぱらった中東系のおじさん。「ビール飲むかい」と言ってきたので遠慮したらガサガサと紙袋からオレンジジュースを出して、くれた(いらないけど)。「チップス食うかい」と勧めてきたり、「私はアフガニスタンから来てイギリスに住んでる」と自己紹介して「俺はムハンマドだ」といってパスポートを見せてきたり、やたら話しかけてくるのだけれど、とにかく酒臭い。そしてイギリスに住んでる割りに英語が酷い。国境越えたあたりで「SIMカードをこっちに替えてくれ」って頼んできたり、人の膝にiPad置いてきたりやたらと図々しいし。挙げ句の果てに、ブリュッセルから乗ってきた人に「そこは私の席よ」と言われて「お前が替わるのか?」と僕に言ってきたので、「いや、あんたが替わるんだ」と告げると修学旅行生の集団みたいな中の席に替わっていった…….。やたらとうるさい修学旅行生を黙らせるには充分なインパクトだったようだが。
アントワープに着くと、異常に寒い。やはりベルギーは寒いのか。来る予定が無かったのでガイドブックを持っておらず全く土地勘がわからないのだけれど、ホテルにチェックインを済ませて歴史地区の方を散歩してみると、やっぱりベルギーは愛すべき国だ!と修士のリサーチで来た時のことを思い出して楽しくなる。駅前の目抜き通りや教会前の広場こそ観光客向けの店ばかり軒を連ねているが、一本小道に入るとほとんど人も歩いていない静かな道になる。パリにはこの静寂はなかった。パリは美術館や博物館は好きだけれど、街としては全然好きではない。あの酷い臭いもここには無い。
アントワープに来たのはプランタン・モレトゥスを見る為ともうひとつ理由があって、ポール・オトレの「世界都市」の計画が各地で頓挫しまくって、最終的に流れ着いたのがアントワープのスヘルデ川の嘴型の河岸だったからである。別に来たからと言って何かわかるわけでもないが、オトレ研究をした身としては気になっていたのである。それで実際河岸に来てみてもやはり大して何もないのだけれど、やっぱりあの話は何かしらパッケージにしないとな、という思いが湧いてくる。途中で寄ってみた本屋でも、思わずあの計画の設計担当だった建築家グループ「de 8 en Opbouw」の資料を探してしまうし。なんか「やれ」って言われてるような……。
ベルギーはフランス語とフラマン語とオランダ語が地域によって分かれていて、観光地の標識なんかはそれに英語が加わって4カ国語表記になっている。それって印刷物も4倍の紙面になってしまうわけで、効率の面から言えば恐ろしく大変だよなあ。それにしてもオランダ語は全くわからん!読み方すらわからん!店に入る気すら起きないぐらいわからん!意味が想像できるのはムール貝とワインぐらいのもんだ。

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自分で漕ぐなら充電してもいいよスペース。この馬鹿っぽい発想は好きだ。

4/13 骨

とりあえずパリの前半最終日。オーステルリッツ駅まで行って植物園・自然史博物館を見ることに。日曜日で近所の店が徹底的に閉まっているので、植物園横のイタリア系の店で食べることに。だが、給仕のおばさん(田中眞紀子似)の愛想が異常に悪い。こっちも段々腹立たしくなってきて、なんでこんな扱いをうけなきゃならんのかと訝しむ。ただでさえこんなに高いのに。早くあんなおばさん忘れよう。

植物園の前の通りは「ビュフォン通り」。この時点で期待高まる。でもほんとは植物園を見に来たというよりは「古生物学・比較解剖学博物館」を見に来た。全く前情報なしにカンだけで来たのだが、いきなり人体解剖図から飛び出てきたような模型(マスカーニ君とでも名付けようか)の先導により、動物の骨達がこちらに向かって大行進。「進化大陳列館」と対になっているとは全く露知らず、この建物まるごとホネ、ホネ、ホネの大行列。というよりこっちがオリジンか。またもやお見逸れしやした….。そして2階に行くと今度は恐竜達のホネの大行列。いやあ、恐竜展なんか行ってる場合じゃござあませんわ。フランスは芸術以前に一大科学国家だったことを思い知らされる。キュヴィエやラマルク、ビュフォン、ドルビニ達がやってたことの功績が今こうしてみられるのだから凄いよなあ。ちなみにこの動植物園を歩いていると彼らの像や彼らの名前が付いた部屋なんかがある。こういうことが色々つながってハッとするのも博物図譜展をやってたおかげだ。
その後、8年ぶりぐらいに「進化大陳列館」に行ってみたのだけれど、あれ、なんかダメになってないか?2回目だからかもしれないし、ホネの大行列を見た後だからかもしれないが、展示物も閑散としてるし、内容が浅いし、ただカッコ良く並べただけの様にも見える。おかしいな……2回行くもんじゃないのか。
ちょっとがっかりしながらトボトボとカルティエ・ラタンまで歩き、気分直しにクリュニー中世美術館へ。やはりここは良い。展示の内容といい、密度といい、陳列といい、照明といい、これだけ小さな建物で大掛かりなことをやらずこれだけの展示ができるんだから、他の「我が国の威厳!」的な万博系博物館とは対極的に素晴らしい。ここは『貴婦人と一角獣』でも有名なところなのだけど、今回は出張中ということで見られず。前回も見られなかったような気がするが、縁がないということか。来るたびに発見があって、良い博物館というのはこういうものだろう。
はてさて、行きたいところに全て行ってしまったが、ホテルに帰るには早すぎる。散歩がてらルーヴルの地下でアップル・ストアに寄り、電源のプラグ部分だけ売ってないかと思ったが、ワールド・トラベル・セットとかいう各国のプラグがセットになったやつしか売ってなかった。そんなにいらんわ。そのまま歩いてたらコンコルド広場に出たので一周まわる。円周上に「リール」「ストラスブール」「マルセイユ」「ボルドー」などとフランス各地の地名がついた女神像が建っていたので、暇だから一周回る。それにしてもこのオベリスク、ほんとにエジプトから運んできたんだろうか。壊れるだろ、普通。

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マスカーニ君が写ってる写真は残念ながらブレていました……。

4/12 建築・文化財博物館

午前中を潰してコインランドリーで洗濯。しかし全く使い方がわからず黒人の人に教えてもらう(なんかすごく嫌そうだけど優しかった)。例のごとくパリパリになってしまったのだけど、柔軟剤を入れてただけマシか。でもよく考えたら1回洗濯して40分乾燥機かけると10ユーロぐらい吹っ飛ぶな。うーん。どう考えたって1ユーロ100円ぐらいじゃないと割に合わない。パリだからということを差し引いたとしても、高い。
昼からシャイヨー宮にある建築・文化財博物館へ。ここもすごい。フランス各地の教会や聖堂の建築・彫刻を実際に型を取って持って来て、時代・様式を比較して学ぶことのできる複製比較博物館。構想は建築家ウジェーヌ・ヴィオレ・ル・デュクだが、複製品でもいいから一カ所に集めて比較してしまおうという心意気にポール・オトレにつながるものを感じる。個人的には意匠が意匠として洗練されるルネサンスより前の12世紀前半のロマネスクやゴシック初期のものが興味深い。ちょっと暴論気味だけど、何でも洗練ていないほうが一番面白みがあるのではないだろうか。いやもちろん洗練されていて、かつ野心的なものがあるのは知っているけれども。やたらめったら人物を彫り込んでる様は「あ、これは千手観音」「あ、これは五百羅漢」「これは十人神将だ」と何か日本と通じるものを感じます。
そして2階へ上がると一気に時代が下って、いきなり水晶宮の模型とオスマンのパリ大改造の比較模型。左に行くと極地建築の実験やら私の泊まってるラ・デファンスの超高層建築の模型やらがあり、右に行けばガルニエ先生の『工業都市』の模型(!)やら余暇の為の建築、図書館やメディアテークの建築がそれぞれ特集されており、その奥に鎮座するのはマルセイユのユニテ・ダビタシオンの実物大モデル。そしてちゃんと2階まで上がれる。日本にはそもそも建築や都市の博物館という概念すらまともにないので、ふらっとツーリストが来てこんな貴重な模型や本が見られるなんて、素晴らしすぎる。建築学生は大枚払ってでも来るべきだろうねえ。うーん、気分は幕末の洋行使節団。ユニテの模型を堪能した後に、あれ、まだ壁画とか祭壇画の分野がある……と気付く。流石にお腹いっぱいで違いが全くわかりませんのでギブアップ。地下でジャン・ルイ・公園監修の企画展があったので行ってみたけど始まるのは月末だった。また帰り際に寄ろう。
気がつけばもう17時近くで、博物館関係は終わってしまうなあ、と思っていたら目の前にエッフェル塔があるじゃあーりませんか(チャーリー浜)。初めて見た。パリはなんやかんや3回目だけど、初回はコルビュジエ巡りとかしてただけで、2回目は大学図書館に行っただけなので、エッフェル塔どころかルーブルもオルセーも行っていない。で、間近で見ると100年前にこれを建てるのはさぞかしエポックメーキングだったろうな、という構造美。よく見るとキュヴィエ、ラプラス、ラヴォアジエ、アンペールなど科学者の名前が中腹に刻まれているのだね。この感覚は日本には無いなあ。
その後、シャン・ド・マルスを通ってセーヴル通りをサンジェルマン・デ・プレの方に歩き、ルーヴルまで行って電車で帰る。途中、良さげなチーズ屋があったのと、日本で言う伊勢丹みたいな「ボン・マルシェ」が恐ろしく楽しかった。今日は胃がシクシク泣いているため何も買わず帰ったけれど。
ちなみに今週の食事は、ほとんどスーパーの惣菜かテイクアウト。いかにケバブを避けるかが今後のテーマになりそう。でも今日買ったスーパーのカレーは当たりだなあ。

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Oさむさん早く日程決めて。

5日目: 再びリシュリューへ

朝も早よから腰弁下げて、行ってきましたリシュリュー館。開館直後で一番乗り。腰弁下げたは嘘だけど、朝飯食べずに16時。デジカメ切れてはさようなら。ハイ、ごくろうさん。

毎日微妙な時間帯に終わるのでその後何しようか迷うのだが、とりあえずサンジェルマン・デ・プレからカルチェ・ラタンあたりまで歩き、クリュニーの裏の映画館が並んでる通りでグレミヨンの『白い足 PATTES BLANCHES』を見る。平日の夕方になんと満員で、みんな一生懸命見てる。いい観客だねえ。映画も言葉がわからなくても画を見てれば大体わかって、大変面白かった。グレミヨン作品を見たのは2つめなのだけれど、地形を使うのがうまい人なのだね。あと役者陣が役そのものになっている。そしてパーティーシーンの狂乱の楽しさとその背後で起こる事件。

とりあえず3日間のリサーチが終了。見ようと思ってた物の7割ぐらいは見れたけれど、あとは状態が悪いとかで見られないのだからしょうがない。ただもうちょっと見れば視野が開ける気がするので閲覧カードを延長しようかな。某Oさむ氏との合流が延びに延びているので、あと一週間、予定が空いた。どうしようね。

『おはよう』はフラ語で……。
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4日目: リシュリュー

「リシュリュー」と呼ばれているBnFの旧館へ。「リシュリュー」は地名で、「フランソワ・ミッテラン」(建てた大統領)とか「トルビアック」(地名)とか呼ばれてる新館と違って全くの古典的建築で雰囲気がある。数年前の火災が関係しているかどうか知らないが大規模改修中で、正面の庭にプレハブ小屋が積み重なって建っている(プレハブも外観に気を使っている感じ)。入口で軽い荷物検査を受け、僕の見たい資料がある「地図・図面 Cartes et Plans」部門の部屋に向かう。こういう建物自体の使い方がわからないので部屋の入口でどうすればいいかわからなかったが、ブザーみたいなのを押せば中から鍵を開けてくれた。部屋は左右に斜め勾配の机が並んでいて、地球儀か天球儀やらアストロラーベやらが置いてあって、19世紀かと思うような研究部屋。とんでもないところに来ちゃったな、と思いながら近くにいた白衣の司書の方に「これを見たいんです」とリストを渡して事情を話すとロッカーの鍵を渡され、一旦外に出てバッグを置く。別の司書の方に再び「これを見たいんです」と言うと、閲覧申請書を束で渡され、閲覧席を確保してくれる。1冊につき1枚申請書を書き上げると、書庫から運んでくる担当のおっちゃんたちがワイワイと持ってきてくれる。このノリがとてもよい。日本では滅多に触らせてくれないような貴重書が5冊、目の前にドン、ドンと置かれ、「楽しんでね」的な感じで去って行くおっちゃんたち。
もう貴重書がたくさん目の前に置かれているだけで目眩がしていたのだが、1冊目を開くとそこには夢の世界が……。いやあ、映画で泣くことはあるけど、デザインで泣くことは全く無かったのに、これは泣きますよ……。1ページ1ページめくるたびに200年近く前の人達のとんでもない仕事意識と労力が立ち現れて、私と本の間には、別の本も他の人も存在せず、ただ空気があるのみという事態に泣かないではいられましょうか。いちいち「オーマイガー」的に感動しているジャポネはさぞかし奇異に映ったでしょう。ほんとに来て良かった。
そんなこんなで5時間閲覧と複写を続けてデジカメの電池が切れたので明日も来ることにする。うーん、フランス語とドイツ語がもっと読めたらいくらでも読み込めるのになあ、と思いながら、図書館を後にした。ベルヴィルに帰って荷物を引き取り、新しい宿があるラ・デファンスへ移動するのだった。

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3日目: BnFと『グランド・ブダペスト・ホテル』

WiFi環境がよろしくないので結局昨日の写真はまだ上げられないのだが、昨日帰ったらBnF(フランス国立図書館)から研究図書室の事前認定の受領通知が届いていたので、今朝早くからBnFへ。BnFは中庭の上部(地上)にあるリファレンス・ライブラリーと地下(といっても中庭が掘ってあるので地下感はない)にあるリサーチ・ライブラリーの2つに別れていて、大人なら誰でも入れる前者と違い、後者は少々複雑な手続きをする必要がある。学生は指導教員の推薦書等が必要なようだが、私は一応講師である、という肩書きで日本から事前認定(pré-accréditation)を申請していた。送ったのが金曜なので、土日挟んで4、5日経って受領通知が下りたことになる。
入口の金属探知機と荷物検査を通って中に入ると、インフォメーションがあり、リサーチ・ライブラリーに入るカードが欲しいと言うと順番待ちの整理券をくれる。そして右手にある別の窓口に行って少々の面接を受けると(かなりびびっていたけどカードを3日にするか15日にするか、というレベルで、研究内容についてはさほど聞かれない)リサーチ・ライブラリー用のカードと簡単なインストラクションをしてくれ、利用料を会計窓口で払ってくれとのこと(日本ではありえないけど、有料なのです)。展覧会などと同じ会計窓口で8ユーロ支払う。
ここまででとりあえず地下への潜入許可が下りたことになるのだけれど、ここからも結構複雑で、まずクロークで荷物を預け、代わりに透明の肩掛けプラスチック・バッグをもらう(BnFのロゴ入り)。ラップトップやデジカメなんかも持っていって良いのだが、全部こっちに移し替える必要がある。それを肩から下げて入場ゲートでカードをかざすと、開けゴマ、という感じで重々しい二重の入場門が開く。中に入ったら長いエスカレーターがあって、下の受付で閲覧したい本を言うと行くべきブース(だだっ広い敷地の中は分野毎に大きく別れている)を教えてくれる。再びカードをかざして中に入ると、静まり返った回廊に出る。目の前には例の庭園があり、ロの字型の回廊の両サイドに分野毎の図書室がある。この時点でかなり感動だ。
私は「地理学」の分野だったので「M」の図書室に行って司書の人に欲しい本を告げると「本が到着するまで40分待ってね」と言われる。待ち時間のことはなんとなく知っていたので、備え付けのコンピュータで目録を検索していると、カード読み取り端末を使って本の予約から席の予約、読みたい本のリストの作成など色々なことができることが判明。嗚呼、わが母校の図書館もこれができたら!と無責任なことを思いながら調べ物をしているうちに40分経過。ようやく読みたい本とご対面。ここで「席は取った?」と言われるので「まだ」と言うと、相応しい席を取ってくれる。席にはEthernetケーブルと電源がついていて、建物全体で統一された木材でできたオリジナルのデザインの机と椅子である。いやはや、機能からデザインに至るまでお見逸れ致しやす。
で、結局読みたい本は申し込んでも「これは状態が悪いのでやっぱダメ」とネット経由で言われたりして今日のところはあまり成果が上がらなかったが、利用者カードを取得して使い方を覚えただけでも良しとしなければならない。「本の写真を撮りたいのだけど」と言うと、本ごとに1枚誓約書みたいなのを書かされて、撮ることができた。ちなみにリサーチ・ライブラリーのフロアにはカフェがあって、軽食を取ることができる。ちょっと高級っぽいサンドイッチ700円近くしたことには憤慨したが、文字通り背に腹は代えられないので、冷たい昼飯をむしゃむしゃ食べる。

昼食後、地上階に上がって「été 14(14年夏)」という展示を見る。つまり1914年、第一次世界大戦勃発前夜のヨーロッパの展示で、最初は「フランス人はこうやって自国の春を褒めるのが好きよね」と思っていたが、当時の多色石版のポスターの数々や政治情勢を皮肉った地図の数々は思いがけず面白かった。

16時半ごろ図書館を出て、隣接するmk2のシネコンを見てみると、ウェス・アンダーソンの新作『グランド・ブダペスト・ホテル』がやっているではないですか。昨日Pariscopeで調べたところ結構やっているところがあり、さらにはレトロスペクティブまでやっているところがあることに狂喜していたのだけれど、ここで遭ったが100年目、というやつでシネコンに飛び込む。最初誰1人いないスクリーンに入って「ほんとにここでやるのか?実家の近所でソナチネ見たときも2人はいたぞ?」と思っていたら結局最終的には15人ぐらいにはなった。で、どうだったかというと、喋ってる軽口の半分以上はわからなかったけれど、終わった後しばらく立ち上がれないぐらい凄かった。これぞコメディ、これぞ映画ですよ。あー、もう一回行こうかな。ウェスの最高傑作かもしれない。

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2日目: Arts et Metiers

さすがに1ヶ月間旅日記を書くのもしんどいし、もう私も若くないので「ヨーロッパ最高!」とかそういう気分ではないのだけれど(どちらかというと悪いとこばかり見えるのね、年だから)、とりあえずフランス国立工芸博物館(と訳すのはいかがなものか)で久しぶりに「ヨーロッパ最高!」となったのでここに記しておく。工芸、と言ってもそれは科学技術(ArtsとMétiers)の博物館で、観測・測量から印刷・電信・計算・記録、果ては製鉄工場やダム、掘削機の設計にいたるまで、道具や機械、建築等々の技術発達が如何にルネッサンスや産業革命を実現したか、ということを、実物を以て知ることができる(ここ大事)という素晴らしい学習環境であった。というか、実物の凄さが全て物語っているわけですよ。ハンティントン・ライブラリーの貴重書展示を見たと気も思ったけれども、いくら教科書で「天体望遠鏡の発展が云々」とか「機械の発展が産業革命を云々」とか言っても全く実感湧かないし(事実日本は一週遅れから一気に近代化したわけだから途中の機械が残ってたりしないんだろうが)、こういう展示を見ている国民には絶対勝てないと思わされる。これは別に表象の話だけじゃなくて自然史博物館でもなんでも、これ小中学生のとき見てたら絶対人生変わるでしょ、という圧倒的な違い。グローバル化とかなんとか言ってるけど、ここまで物が違うとは。日本もがんばってるんだろうけど、この差はどうしたものか。
しかしコンピューターのブースになった途端にデジカメの電池が切れる始末。1週間撮り続けてもへたらなかった私のデジカメが……。電池自体がへばってないか、この先不安。なので写真はまた撮りに行こうと思う。

昼: アンファン・ルージュの市場で友人お薦めのクスクス。クスクスってこんなにいっぱい入ってるもんなのか!日本の詐欺!

その後、ポンピドゥーまで行ってみたら定休日で、しょうがないのでノートルダムを見る。よく見るとセンターの柱間に並んでいるのが9人で、左が8人で、右が7人と、シンメトリじゃない。ザグラダ・ファミリアにも通じるような彫刻の豊富さ・緻密さ。

アラブ文化研究所:
まさかあの窓の模様が動くとは。

歩いていたらムサビのパリ賞の寮である、してあんてるなしょなるでざーるがあった。ばざーるでござーる。周りには手製本のノートや手作りの封筒などを無茶苦茶高い値段で売る店があったり(ノート1冊7千円でござい)、地方の手工芸品を売る店があったり、確かに芸術の匂いがするエリアですな。手工芸を大事にすることはこの国の弱点でもあり美点でもあると思います。さへりを輸出したい。

夜: マレ地区のファラフェルの店でファラフェル。「世界一のファラフェル」と書いた店が長期休業でがっかりしたら、その数十メートル先に「この通りで一番のファラフェル」と書いた店がやっていた。そして並んでいるのはその向かいの店、という全く謎な構造。そもそも母国をさておいて「世界一」とはなんたることか。いや、でもまじでうまかったです。しかしこれでも800円近いんだよなあ。全部、あべのせいだ。

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1日目

とりあえず着いた。
移民街ど真ん中、四畳半ぐらいの部屋でなぜか窓にはレースのカーテンしかかかっていない。向かいのアパートの人が曇りガラスでシャワーを浴びててドキドキするじゃないですか。どういうプライベート意識なんだ。

機内で映画4本ぐらい見た。まわりが『LIFE!』ばっかり見てて、善き哉、善き哉。

『シックス・センス』
初めて見た。人が横切ったり、戸棚が開いたりするだけなのに、みんな真剣な顔して怖がってる、という馬鹿馬鹿しさが最高。やるじゃんシャマラン先生。オスメント君の今の姿を考えながら見るとしみじみする。

『グッド・ウィル・ハンティング』
見たことあったような、なかったような。とにかく若いマット・デイモンとベン・アフレックがいちゃいちゃしてるのがお美しい(脚本も彼ら二人)。ガスヴァン先生では一番乗れるかな。

『清須会議』
ごめん無理。「これは誰役」っていうのは名前呼べばいいってもんじゃないと思う。そもそもこの人の「コメディ」の認識には相容れないものを感じるし(とてもワイルダーやルビッチが好きだとか言われたくない)、映画になってないのは当然として、演劇としてもどうなんですか、これ。強いて褒めるとしたら中谷美紀の名古屋弁と踊り。

あと、『パシフィック・リム』の冒頭を見たけど、機内が暗いのにとにかく画面が光るので、自粛。隣の人が『ゼロ・グラヴィティ』見てたけど、意味あるのか、それ。

ホテルに着いて、フォーク20本セットとかシャンプーとか買い込んで就寝。ボディ・ソープがどれか全然わからなかった。
国立図書館の許可がまだ下りない(返信がない)のだけれど、どうしようか。