4/14, 15

4/14
何かと噂の、寮のフランス語教室に行ってみる。受付の人に難しいかどうか聞いてみたら「みんなビギナーだから大丈夫よ〜」とか言われたのに、いざ始まってみたら「下道走ってたのに急に高速乗せられたみたい」っていうやつで、みんな既に結構喋れるし、英語も辞書も禁止でフランス語の説明をフランス語でされるのだけれど、そのフランス語もわからんし、返事もわからんし、そもそも現在形ですらないし、じゅぬこんぽんぱってな具合で2時間半頭がぶっ飛んで、たぶん白髪が増えた。多少やってたからいいものの、これはゼロからの人は無理だろう。やることの優先順位がひっくり返って、とりあえずフランス語教室についていけるように必死で勉強することに。
午後はルーブル通りの大きな郵便局、オペラ・ガルニエの先の切手屋をはしご。途中、すごそうな調理器具屋とカードゲーム屋を見つけて心踊る(あとオフィス・デポとコピー屋も)。
夜は真上の部屋のテキスタイル・インスタレーションの女性のオープンスタジオというかパーティー(「ピクニック」らしい)に行くことに。まさにジャカード織りそのもので、色んな実験をした秀作が展示してあり、バイナリ・コードみたいだね、と談笑するが、非常に刺激を受けた。あと、料理がめっちゃうまい。彼氏はパーカッショニストで、時々上から聞こえる定期的な打撃音は彼のものだったらしい。彼のバンドのギタリストはなんとミース設計の家(シカゴ)とライト設計の家(アイオワ)の両方に住んでるらしく、「He is crazy」と言っていた。私もそう思う。にわかに信じがたい。

4/15
些事を済ませ、食べるものも無いのでクリュニー裏のフィンランド・カフェに行ってお勉強。アメリカンとシナモンロールで千円ぐらいした。この辺はやはり高いのか。もう物価が高くて嫌になる。
昼はドン・シーゲルの『殺人者たち The Killers』を見るはずが、始まってみればなんでM・マストロヤンニが出てるんだ?リー・マーヴィンとカサヴェテスのはずだぞ?と思い始め、ん、そういえば字幕がイタリア語だ!げ、しまったアントニオーニを間違えて買ってしまった!と気づき、まあここで会ったが百年目、大人しく見ることにしたのだけど、うん、まあ、私にはわかりませんというか、退屈でした(ちなみにタイトルは『夜』)。おかげでそのあとのロバート・シオドマク『殺人者 The Killers』(シーゲルのリメイク版と同時上映)でうたた寝してしまった。しかしこの頃のエヴァ・ガードナーって恐ろしく美人だな。まさにファム・ファタールってやつで、人生棒に振ってもおかしくない。

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友人に請われて撮影。

4/13 映画三本

深夜に仕事をひとつ上げたこともあり、今日は朝から映画3本見る予定。ムルナウ『ファウスト』、フォード『馬上の二人』、ヒューストン『荒馬と女』。3本ともデジタルリマスターで、フォードは4K、ヒューストンは2K。フランス語では「digital」じゃなくて「numérique」と言うらしい。

F・W・ムルナウ監督『ファウスト』
90年近く前にこの視覚効果!と終始動揺するが、それにしてもメフィストフェレスがザキヤマさんにしか見えず、私の中では『ベルリン・アレクサンダー広場』に続いてザキヤマさん映画に分類されてしまった。

ジョン・フォード監督『馬上の二人 Les Deux Cavaliers / Two Road Together
冒頭、少年が鐘を鳴らす綱を引っ張るショットから、ああ、もう、天才、とため息をもらさざるを得ないジョン・フォード。冗談が全然聞き取れなかったのが残念だが、ジェームズ・スチュアートってこんな役もやれたのね。タバコをふかす、物を投げる、蹴飛ばす、のフォード節。ヒロインがオルゴールをぶん投げるところでは落涙。ラストはざまあみろ、これぞ男だ、と言いたくなる清々しさ。いやはや、素晴らしき哉。

ジョン・ヒューストン監督『荒馬と女 The Misfits
とんだポロリ映画だな、と思ってたらおっさんはモンローに振り回されるだけじゃなくて最後に男の意地を見せてくれたところが良かった。それにしてもロデオだの飛行機だの馬と格闘するだの、とんでもない。
てっきりジョン・ウェインが出てるものだと思い込んでいて、いつ出て来るんだ、ひょっとしてこのスケベおやじがジョン・ウェインなのか?だったら見たくなかった!とか思ってたらこれはクラーク・ゲーブルでした。良かった、のか?

しかしこんな名画が徒歩15分の場所で毎日のように見られるなんて、ここは天国だ!(まだ本業はやっていないのに。)

4/12 マラソン

洗濯と、仕事で1日を過ごす。

朝はセーヌ川沿いでマラソンがやっていて、目の前の通りが通行止め、ブラスバンドが始終ズンタカやっていた。

夕方、ようやく音楽系の人と知り合う。

夜は昨日のムール貝。昨日買ったのはあんまり新鮮じゃなかったかかもしれず、1/3ぐらい既に口がぱっくり開いていた。冬にベルギーをムール巡りして勉強したい。市場の人には「塩、エシャロット、白ワインだけ!水は禁止!」って言われたが、オリーブオイルとニンニクとイタリアンパセリを入れたり、バターやクリーム仕立てにしたり、いくらでも食べ方があるからなあ。個人的には付け合わせのポテトフライは要らない。

4/11 ザ・デッド

午前中、友人の付き添いで郵便局へ。その後マルシェに行ったのだが、気づいたらエコバッグが無かった。何も入っていなかったけれど、多分存在感無さすぎて落としたのだろう。自分はあまり落とし物をしないと思っていたので、少し凹む。

昼間、ジョン・ヒューストンの『ザ・デッド/「ダブリン市民」より Gens de Dublin / The Dead』を見に行く。ジェイムズ・ジョイスの短編を最晩年に映画化したもので、とても謙虚に室内のパーティー映画としてまとめられており、時間も90分以内。そこにまず驚くと共に、何しろ徹頭徹尾雪が降り続けていることが素晴らしく、町の静けさとパーティーの密室性を引き立てていて、詩情が高まる。終映後、言葉がわからなかったため近くの本屋で原作を探したら、バイリンガルの『The Dead』が文庫で売っていたので購入(もちろん英/仏のバイリンガルだが)。

夜、マルシェで買ったムール貝を蒸して、年中これでいいや、と思いながら食べまくる。なにせ安い。もうすぐシーズンが終わってしまうのが悲しいところ。最後はスープをパスタに使ってすっかり酔っ払って撃沈。今回は体調を心配してあまり飲んでいないのだけれど、まあたまにはいいでしょ。

4/10 ヴェルレーヌ

昼間はずっと日本の仕事。参考のためにキオスクで新聞を買い漁るが、フランスでもドイツの新聞なんかを買うと馬鹿高い。600円ぐらいしたりするので、うっかり買うと大変なことになりそうだ。

夕方から友人の誘いでモーリス・ラヴェル音楽院で行われる演奏会「音楽におけるヴェルレーヌ」を聴きに行く。留学中の日本人の友人がピアノで出演するとのことで、司会の先生の言葉はほとんど全くわからなかったが(とにかく喋りが達者)、ヴェルレーヌの詩をもとに曲を書いたドビュッシー、フォーレ、(レイナルド・)アーンの3人の曲を比較するという企画のようで、私はフォーレの《月の光》が聴けただけでちょっと嬉しかったのだけれど、他の曲はほとんど誰が誰の曲なのかわからず、当然詩の内容もわからないので、歌うフランス人生徒さんの顔の筋肉がよく動くなあ、とかいきなりテンション上げて歌ったりできてすごいなあ、とかしょぼいことを考えながら楽しんだ(いや、でもその友人の友人のピアノはすごくよかった)。終わった後、近くのお店で5人で飲んで、パリ在住のあれこれを聞かせてもらった。帰り道には桜も咲いていて(なんか日本のと全然違うけど……)、夜桜を見ながら春の到来を再度感じながら帰る(日本では既に春だったので)。

4/8, 9 レセプション

4/8
語学、仕事、翌日のレセプションのための準備。
夕方、ジョン・ヒューストンの『ロイ・ビーン Juge et Hors-la-loi / The Life and Times of Judge Roy Bean』(1972)を見に行くが、フランス語吹替え版で面食らった。セリフ全然わからなくても面白かったが。脚本ジョン・ミリアスか。確かに後半ダレてそれこそ大乱闘でもしなけりゃ終わらせられなかったかもしれないが、ラスト燃える建物の中に乗馬したまま二階に登ったロイ・ビーンがテラスで娘に姿を見せるところ、泣ける。ハリウッドの古豪がニューシネマに寄ろうとしてなりきれず、頑固なじじいの死に様を見せつけるヒューストンの人生そのものに見える。

4/9
昼から新入居者のレセプション。総合ディレクター(多分一番偉い人)より、ここの「良い住人」になる方法は無いので、皆思い思いのしたいことをするべし、それが「良い住人」だ、とのお言葉。積極的に外に出るべし、とも。
その後は昼食会で、日本人の方々数人と、海外の方数人と友達になった。話してたら古堅さんの友人がいて驚く。世の中狭い。お開きの後、他の人たちの部屋をグランドツアーするが、知らなかった建物もあって、部屋の構造もまちまち。うちの部屋が一番シンプルに絵画用にできてるな、と感じる。
夕方、再びヒューストンの『パナマの死角 Griffes Jaunes / Across the Pacific』(1942)。太平洋を超えて横浜に行って日本の陰謀を阻止する話だと思ってたら、なぜかニューヨークに行ってそこからパナマに行くというよくわからないことになっていたが(だってPacificって書いてあるんだもん)、でも最終的にはヒロヒトの陰謀を阻止する話になっていた。モンタージュはドン・シーゲルってどういう意味だろう。ハンフリー・ボガードって小さいのね。「ビンボウヒマナシ、カネモチヒマアリ」。

帰って仕事する。スティックのりはデパートに行けば3Mのものがあるが、2本で600円。泣ける。

ググってみたら『勇者の赤いバッヂ』のDVDなんか出てるのか……。見たい。

4/7 パンがうまい

本日も身の回りのことを整えていたら日がくれた也。洗濯が一大イベントで、部屋の倉庫からいろんなものを引っ張り出してきて物干しに使う。ようやく定規、プリンター用紙、インク、サランラップ、タッパーなどが手に入ったが、本腰入れて動き出すのに二週間ぐらいかかりそう。

 この国に水切りネット的なものはないのか?

4/6 ミスター・ローレンスの日本語全然わからない

昼間にちょっと行ってついでに買い物して帰ってこようと思っていた映画館が、行ってみたら見当違いだったためにリュクサンブール公園近辺を一周することになり、結果クリュニーで大島の『戦場のメリークリスマス FURYO』とベルトルッチの『革命前夜 Prima della rivoluzione』を見ることとなった。『戦メリ』会場では隣で並んでいたフランス人のおばあさんに話しかけられ、私は小津、成瀬が大好きで、最近は山田洋次の『小さいおうち』がよかったわ、今は谷崎を読んでいるの、とフランス語版の谷崎の本を差し出された。「それはエロティックですね」と答えそうになったが、やめておいた。小津、成瀬と山田を一緒にするなよとは言いたかったが。

イタリア語映画をフランス語字幕で見るのはさすがに無理があったが、わけがわからなくても昂揚し陶酔させてくれるのはベルトルッチがベルトルッチたる所以であり、わけがわかっても退屈な映画とはワケが違うのだ、と確信するところではあったが、微笑ましいシーンもあり、若々しいヌーヴェルヴァーグっ子っぷりが至る所に現れているが、これを撮ったのが23歳だと思うとちょっと死にたくなるほど驚異的な才能である。

すっかり夕方になってしまったので必要な買い物をして帰る。ついに座布団っぽいクッションをゲットした。これで尻を冷やさずに仕事ができる(寮の椅子が寒いのだ)。

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パリ大学芸術・考古学科。かっこいい!ボーザール出身でローマ賞を受賞したポール・ビゴ(Paul Bigot)の仕業らしい。

4/5 引きこもり

日曜、晴れ、パリ、という素晴らしい条件の中で日がな一日部屋にこもって仕事をする私。林檎様のおかげで大変でした。

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唯一外出して買ってきた生ハムと青カビチーズのサンドイッチ。うまし。

4/4 郵便局

フランスに長期滞在するためにはビザだけではなく滞在許可証(Carte de Sejour)を申請しなければいけないのだが、これを申請するためにはまず大使館でもらった書式の残り半分を埋め、書留(配達通知郵便)で送らなければいけない。インターネットで調べたところ、配達通知は「Lettre Recommandé avec avis de Réception」といい、郵便局の窓口で頼めば伝票をくれるとのこと。さっそく9時過ぎから橋を渡ってサン=ルイ島の最寄りの郵便局に行ってみるが、土曜日は10時からとのことでまだ閉まっていた。部屋に戻るのもあれなので、島を半周する。この辺のことを全然知らないのだが、何かこだわりのありそうな店が多い雰囲気で、観光客らしき人たちが群がっていた。純粋散歩ができる余裕ができたら行ってみたい。郵便局に帰ってみると開いていて、フランス語しか喋れなさそうなおじさんとおばさんに片言で尋ねながら、なんとか送れたらしい。めんどくさそうな顔をしていたおじさんの顔が急ににこやかになる。この国の人たちは、注文や質問をした時はつっけんどんだが、会計の後や問題が解決した時はとてもフレンドリーになるような気がする。

ついでに近所にあった、昨日勧められたパン屋の1つでブリオッシュ・スイス(チョコチップが入ったつぶれた革靴みたいなパン)を買って食べて感激する。何を隠そうこれが私の一番好きなパンである。日本ではあんまり売っていないが、初めてこれをパリで食べた時は、世の中にこんなに美味いパンがあるのかと思ったが、今日のも然り。でも店によって結構呼び名が違う気がする。ちなみに2番目に好きなのはベーコン・エピだから覚えといておいてください。

必要なものを買い足したいのだけれど、とりあえず散策がてら左岸へ渡る。サン=ニコラ・デュ・シャルドネ教会(Église Saint-Nicolas du Chardonnet)に立ち寄ってみるとミサの最中で、観光客で申し訳ないがしばらく座ってミサを聞く。かなりアンプリファイされていた。近くで市場が立っていたので、買い方がよくわからないながら、周りの真似をしてあれこれ買ってみる。要領がわからないのでついつい買いすぎてしまい結構高くついたが、私的にはこんなに楽しいことはない。近所でフランス語のレシピ本も買い、とりあえず一回帰る。

M澤氏がパリでルクルーゼを買って米を炊いて暮らしていたとの情報を聞いてぜひ真似しようと思っていたので、これまた近所のデパートへ行く。伊勢丹みたいなものだろうが、文房具フロアがとんでもなく充実していて、文房具売ってないし高いと言っていた出発前の前言を撤回する。文房具が高いのではなくて、文房具に金を払う国だという評価に変わった。ところでルクルーゼは確かに日本より安いのだが思ったよりでかくて重い。M澤氏はこれを日本に持ち帰ったというが、実物を前にするとそんな自信は全く無くなる。だいいち結構小さめのトランクで来たので、多大な犠牲を払うことになりそうだ。とりあえず保留にし、電器屋でドライヤーを購入。晩飯の材料を買い足して部屋に帰る。

それにしても2日間、近所をぐるぐるして疲れた。

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これが寮です(が、私の部屋はこの建物ではありません)。

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