8月某日 国立図書館の「ミュゼ」

パリもあと2日なのだが、全く観光的なエンジンがかからない。長く住んでいると、なかなか「次はここ、次はここ」とならない。実家に帰った状態である。
国立図書館の旧館の方まで行って、スープとパンの昼食をとり、旧館に入ってみる。ずっと工事用のプレハブがあった前庭には花壇ができていて、植物園のように小分けして花が植えられていた。新しくできた「ミュゼ」を見に来たのだが、どうやらそれ以外にも展示スペースがあるらしく、「白と黒のドガ」という展覧会がやっている。セット券を買ってまずミュゼを見てみると、グレコローマンの陶器や彫刻(小さめの)、メダイユ、エトルリアのブロンズ甲冑などが飾られており、思ったよりも広い。面白いのは展示の什器で、かなり古いキャビネを使っているのだろう。これを見るだけでも来る価値がある。ギリシャ美術を見るうちに、ギリシャに呼ばれている気がしてくる。オリエントが先にあるとしても、あの時代にここまで洗練された線描や彫刻が完成したのは驚くべきことだ。何を今更だろうが、改めて敬服する。やはり行くべきなのだろうか。
展示会場を出るともう一つ会場があり、遠くにグローブが見える。ここはどうやら世界の記述と印刷についての展示らしく、書物や楽譜、地図、天球儀などが置かれていて、本気でやればライティングスペースの歴史が全て展示できるんだぞ、という凄みを感じる。
「白と黒のドガ」を見なければならないが、夕方に待ち合わせをしているため、残り10分ほどしかない。しかしチケットの有効期限は今日限りなので、かなり急ぎ足で見る。「もう一度人生をやり直せるなら、白と黒だけで作品を作るだろう」という言葉で始まるこの展覧会は、その名の通り、白黒のドローイングと版画だけで構成されている。ドガといえば否が応でも踊り子の絵を思い浮かべるが、ここには風景画も多く、エッチング(eau-forte)やモノタイプ(1回限りの絵画転写)で様々な白黒のニュアンスを出している。もちろん踊り子を描いた習作も多く、いずれも目の覚めるような作品ばかりである。時間があればもう一度来たいところだ。
サントル・ポンピドゥーで友人と待ち合わせし、ノーマン・フォスター展に入れてもらう。ロンドンのどんぐりみたいなビルや香港の建物以外ほとんど知らなかったのだが、バックミンスター・フラーと協働したりもしていて、かなり未来志向が強いというか、発明的発想をするのが好きなようだ。コルビュジエ味もあるし、プルーヴェ味もある。時代のせいか「durable(フランス語でサステナブルをこう言うらしい)」を前面に押し出していた。大量のスケッチと建築的ドローイングが敷き詰められた第一会場を抜けると、模型が鮨詰めになった第二会場に至る。この模型、百万じゃきかないよな、と呟きながら、模型のクオリティばかりに感心する私。昔、自分が建築家だったら空港のデザインを一番やってみたいな、思っていたが、考えてみると制限ばかりで意外とやりようがなさそうで、まあアプローチに気を衒うか、搭乗口を棒状に並べるか円状に並べるかぐらいしかないのかな、と思った。
夜、友人宅での食事によばれる。ロックダウン中にレバノン惣菜屋で段ボールに隠れてお菓子を食べた話とか、キュレーターがアホばっかりになったという話とか。終電がなくなるまで話し込んで、小雨が降る中帰宅する。

アンリ・ラブルーストによるエトルリア遺跡のスケッチ。オトレ関係でエルネスト・エブラールのことをかじったおかげで、この時代のローマ賞受賞者の仕事には弱い。ちなみにラブルーストは国立図書館の閲覧室の設計者。

左足に文字が彫られている。

ヴィンツェンゾ・コロネリによる天球儀。彼は新館にある巨大な「ルイ14世の天球儀・地球儀」の作者として有名。

ノーマン・フォスター展

アップル本社