旅の振り返り

今回の旅の第一目的は、パリに残してきた荷物を処分することであったし(実際は一時間で終わったが)、色々と世話になった友人たちに(コロナ禍のドタバタでろくな挨拶もせずに別れて以来)久しぶりに会って、お礼参りをすることであった。そういった点においては、目的を達成することはできたと思う(一部の友人には会えなかったが)。でもせっかく行くのだから、締め切りに追われずにゆっくりヨーロッパを見直そうと思っていて、特にギリシャやあるいはトルコあたりまで遡って見ていきたいと思っていたのだが、7月の終わりに「40度の猛暑」というニュースを聞いて、夏に地中海に行くのはやめておこうという決断をした。そして7月末までは学務と課外研究旅行が切れ目なく入っていたので、結果として目的地を考えながら旅をすることになって、旅そのものが一つの思考のプロセスになっていった。カモニカ渓谷の岩絵地図などは碌な資料がなかったこともあり、一度この目で見たいと思っていたから、この旅一番の興奮をもたらした(結果として、洞窟壁画から石器・青銅器・鉄器文化に至るまでの図像の変遷を辿らなければならないという思いは強くなったが)。ルネサンスの先駆けとも謂われるジョットーと、その主題となった聖フランチェスコを訪ねてアッシジに行けたことも、今後の考える糧となるだろう。そして最後にアクシデント的に訪問できたイタリア地図史博物館でも、近代西欧地図学の凄みに改めて衝撃を受けた。
しかし帰ってきてから妻が酒の席で「この人あんまり楽しそうじゃないんですよ」と私を指差しながら言っているのを聞いていてふと思ったのだが(まあもともと無表情ではあるのはさておいて)、ヨーロッパについてはある程度こちらの知識も成熟してきているので、未知のものに接する体験があまりなかったのは事実である。パリでもアジアの宗教美術ばかり見ていたし、無意識に何か別のもの、もっと根源的な問いに対する事例を求めているのかもしれない。2004年に初めてヨーロッパに行って以来(もう19年か…)、基本的にはずっと近代のことばかり考えてきたから、もっと視野を広げないといけないフェーズに来ているのであろう。情報が溢れ返りすぎている(かといってアプリやGoogleに頼らずに旅行するのもかなり難しい)のと、グローバリズムのおかげでどこに行っても同じような光景を目にすることになるので、旅自体がつまらないものになっているのも確かである。とにかく、ここからは少し頭を切り替えていこうと思った旅であった。