10月某日 台湾日記1

午前中まで毎日型授業の最終講評を行い、午後に貴重書閲覧会を行なったその足で成田空港に向かって台北行きの飛行機に乗る。台湾桃園国際空港に到着したのは現地時間の深夜3時だった。peachという航空会社は機内持込手荷物まできっちり計量するがめつさで、チェックイン時だけでなく搭乗時まで係員が計量をしており、保安検査場通過後の免税品店でお土産を買い込んだ台湾人観光客が苛められていた。そのような光景はヨーロッパでは見たことがないので、同胞人の融通の利かない正確さに気の滅入る思いがする。
そのこととは関係がないが、学校を出て台湾に着くまではひたすら気持ちが沈んでいた。また言葉の通じない国に行くことに気が進まないからなのか、前回の渡航で感じた言いようのない虚しさが蘇るからなのか、自分で航空券を取っておきながら「家に帰って寝たいな」という思いが募る。20代の頃は「行ってみたい」「行ってみれば何とかなるでしょう」という無謀な楽観視だけで旅行していたのだなと改めて思う。そんな感傷に浸りつつも、残務処理をしているうちに機体は台湾に到着してしまった。
異国に着いてしまえば乗り越えなければならない障害が次々に襲ってくるし、できるだけ旅行に来た価値を高めなければならないという貧乏性も持ち合わせているので、すぐに現実主義モードに切り替わる。我が身の凡庸さを嘆く。現に、深夜3時の空港で、カプセルホテルのあるターミナル2に移動するためにシャトルバスを待っていたら、小型のバンに乗ったおっちゃんがやってきて、「ターミナル2だろ?乗れ!」(雰囲気訳)と手招きしてきて、乗るかどうか決断を迫られる。どうみてもぼったくりとしか思えないので躊躇していたら、後ろに並んでいた日本人女性3人組の1人が中国語を流暢に話し、同行者に「お金は取らないから乗れってさ」と言っているので、ままよ、と思ってバンに乗り込む。彼女と運ちゃんの話を聞いていると、どうやら今日は利用客が異常に多いらしく、正規のバスでは間に合わないのでおっちゃんが動員され、小型のバンで一日中ターミナル間を往復する羽目になっているらしい。疑って悪かったよ、おっちゃん。台湾はそういう熱い国だった。
ターミナル2に着き、無人の空港をさらに無人の方向へと歩いていくと、ビバーク組が横たわっている5階フードコートの一角に、件のカプセルホテルはあった。騒音を立てないよう慎重に動いて着替えをし、眠りに就く。