4/24 成瀬2本

こちらに来て見る夢の第1位が「まだ日本にいる」で、あれ、おれ日本にいる。やばくない?ん、それとももう一時帰国したのか?恥ずかしい〜。というやつで、夢には欧米人はほとんど出てこず、日本人は日本人の夢を見るんですな(一度だけ、フランス人にタカラヅカの説明をする夢は見た)。

ここ十日ぐらいこちらの生活に慣れながら日本から持ってきた仕事を片付けるのに追われる日々だったのだが、久しぶりに映画に行く。パリ日本文化会館でずっとやっていたのに行けずじまいだった成瀬レトロスペクティブに行き、壁紙、リーフレット、その他大駱駝艦だらけの中、『晩菊』と『秋立ちぬ』を見た。受付のお姉さんは日本人で、久しぶりに「こんにちは」って挨拶される。なんだか照れくさい。

『晩菊』は子連れの未亡人二人と子供のいない心中未遂の女性の3人が戦後のドタバタの中で息子や娘と別れたり昔の男に幻滅しながらそれぞれ強く生きるという、今なら絶対通らないであろう地味なハナシなのだが、とにかくこれは日本酒映画で、パリにいる私にははっきり言って目の毒。飲んだくれの未亡人の望月優子がそれはもうおいしそうにサケを飲むので「あー、やばいなこれは」とパリの日本酒の値段と飲酒欲を天秤にかけながら見てしまった。それにしても後半モノローグが入ったり、音楽がずっと流れてたり、喜劇的なシーンが多くて、成瀬ってこんな俗っぽい監督なのかしら、と思った。

で、『秋立ちぬ』は未亡人の母親に連れられて信州から上京した少年が、妾の子として育てられた東京の旅館(少年の母親が働くことになる)の少女と仲良くなり、少年の母親が旅館の客と熱海へ駆け落ちしてしまった(二度と出てこない)ことをきっかけに、大人に振り回される現実から抜け出し二人して海を見に行く、という少年少女駆け落ちもので、もう上京した少年と母親が橋を渡るところで少女とすれ違う瞬間から泣きのスイッチが入り、信号で東京の悪童達に置いていかれたり、フェンスをよじ登って野球をするところで遅れをとったり、要所要所で橋が出てきたりで、隣のフランスのオッサンがこっちの手すりの内側にズイズイ進出してこなければ号泣していたであろうものを、多少こついても全く動じないおっさんに小さい声でフランス語で排泄物を意味する単語をつぶやき続けたが甲斐なし。それにしても少年少女とはいえ大悲劇は大悲劇であり、ウェス・アンダーソンもこれを見たんでは、と思わんでもなし。

いやはや、しかし2本見てすっかり日本シックになってしまった。危険なり。

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 歩いてたら急に「Typographie de Firmin Didot」と書いた建物。しかしテナント店舗は全く関係なし。何かいわれがあるのだろうか。そういえばオテル・ド・ヴィルにも名前があったが、ディド先生のことは不勉強でして。