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『ファントム・オブ・パラダイス』

まるでキンクスのコンセプト・アルバムみたいにキッチュな登場人物たちに、贋物であることを自虐するわけでも隠蔽するでもないカメラワークと編集で、つなぎ間違いじゃないかと思うようなシーンも散見されて、何が何だかわからない中でポール・ウィリアムスの曲がひたすらに鳴りつづける爆音『ファントム・オブ・パラダイス』。このテンポの速さはとても良いなと思ったけれども、最後辻褄が合わなかったり端折りすぎてたりでその辺は残念。ライブシーンとか多分監督が思ってるよりうまくいってないんだけど、ひたすら画面に出続けるかなり間抜けな「怪人」が実は本当の「ファントム」じゃないって展開までは面白かったな。でも『オペラ座の怪人』の話を詳しく知らないので、その辺のもじりはよくわからないけれども。このジェシカ・ハーパーはとってもハマり役(唄うとき変な動き)で、映画内の観客と同じで思わず恋しちゃうのだけど、今や64歳なのねえ…….。
しかしなんで平日夕方のデパルマが超満員なのか、次の『ゼイリブ』とセットで来てるとしても不可思議。

『フルスタリョフ、車を!』

アレクセイ・ゲルマン監督『フルスタリョフ、車を!』を35mmで。冒頭からなんだかわけがわからないがひたすら面白い。永遠に外にたどり着くことがない迷宮のような室内。なぜ子供達に殴られているのかわからないがその様が遊びのように滑稽。突然勝手に開く傘。大まじめなんだかふざけてるんだかわからない変人奇人達の一挙手一投足に見惚れてしまう。いやあ、凄いもの見た。

書いても誰も行かないでしょうが、上映あと1回です。
5月31日(土) 12:00 @ オーディトリウム渋谷

『Seventh Code』

黒沢清監督、前田敦子主演、というか彼女の為の企画『Seventh Code』を爆音映画祭にて。冒頭の数ショットを見ただけで、『リアル』同様その嘘くささから話に裏があることはすぐにわかるのだが、むしろこの映画の本領は話が終わってからで(いやそれまでも充分に禍々しく胡散臭いのだけれど)、「アキコ」ではなく歌手としての「前田敦子」が画面に現れて歌を唄い始めるところから「なんだこれ」感が急増し、最後のショットに至るまで「なんだこれ」の連続。呆気にとられて終了した。日本映画で見たことのないような格闘シーンや、わけがわからないけれど美しいカーテンだらけの大広間も素晴らしかった。前田さんのたどたどしい喋り方もうまいこと編集がつないでいて、演技の下手さなんかが問題になるのはやっぱりスタッフのせいなんだよな、と思う。袋詰にされて捨てられる所の廃墟ショットが素晴らしい。
これでついに秋元康商品に手を染めてしまったことになるのか。

罪滅ぼし(仕事)の狭間に

ご時世なこともあって『気分はもう戦争』(矢作俊彦 大友克洋)を読んだ。1話目でいきなりものすごいスピードで世界の線引きをしてしまったと思ったら、2話で今度は作者2人が登場し、「一昔前の芸術映画ふうだなァ。作者が話してる所からはじまるんだ。はやったんだよな。知らない?」とメタ漫画的な自虐をかます。戦争と世界情勢を戯画化して人が死ぬことすらギャグにするなんて凄いことしたもんだ。しかも実在の人物を使って。大友作品の中ではかなり好きな部類だなあ。

そしてようやく行けた吉祥寺バウスシアター閉館間際の最後の大祭り「ラスト・バウス」にて『キャスト・アウェイ』の爆音上映を見られた。ほんとによくできた映画だなあ。いつ終わるとも知れない波の音からようやく脱出できたと思ったら、またエンドロールで波の音が流れてきた時には悪夢かと思ったけど。フィアンセとの再会のシーンではやはり泣いてしまった。

『乱と灰色の世界 6』もようやく手に入れ、こちらも泣く。説話的な感情の高まりが、非常に丁寧かつ誠実に描かれているだけでもうダメなのに、こんな優しい戦いの終わらせ方ができるなんて思ってもみず、泣きつつもとても感心した。ジェンダーとかじゃないが、これは女性しか描けないでしょうなあ。

5/5 カウントダウンはじまる

はやいものでヨーロッパもあと3日(最終日は飛ぶだけ)。出発前日までリサーチしているのでお土産なんか買えるかしら。まあお土産買いに来たわけじゃないからいいんだけど。
昨日遅かったせいで朝ちょっと遅れたけれど、昼前にはBnF旧館到着、閉館前まであれこれ見せてもらう。ついにフンボルト先生のかの有名なあの図版に対面できた。目的の本を出してもらったのだけれど図版が付いておらず、そんなはずはない、と目録を精査していたらそこだけペラで別の登録になっていた。現在非常に貴重な物らしいが、見る時に思わず固唾を飲んだ。こんなこと言っちゃ語弊があるけど、人類って退化してるんじゃないかと疑いたくなる完成度。現代人もがんばります。
閉館前に切りのいいところで飛び出して、まだ間に合うはずだとクリュニーまで地下鉄で行き、ギリギリのところで小津の『お早よう』デジタルリマスター版に間に合う。最初、小津なのに画面が揺れない(昨日はフィルムだから揺れてたよ)ことに慣れなかったけれど、徐々に慣れてくればタイトルに代表されるような日常会話の冗長性に対するシニカルな笑いとスラップスティックな下ネタ、それに勇ちゃんのかわいさにメロメロ(昨日の『麦秋』も勇ちゃんだったよね)。これにはフランス人もやられたらしい。そもそもあんな土手の横に家が建ってるわけないじゃん!こんなに日本の住宅がモダンなわけないじゃん!軽石なんか食ったらだめでしょ!と作り込まれてる嘘とジョークの過激さにハラハラ。不意に河原で踊ったり、行進のように歩いたりするところは『落第はしたけれど』に通じてる。勇ちゃんの身ぶりはドライヤーの『奇跡』のように意味を超えた地平に達してるよね。
そしてその後『秋日和』のデジタルリマスター版を続けてみる。僕にとって小津の入口はこれと『お早よう』『浮草』あたりで、何回か見てるのだけれどいまいち焦点がよくわからなかった映画で今回改めて見てみてもわからないけれど、とにかく結婚式のシーンに俄然弱くなった私にとっては催涙弾だった。未亡人の原節子(いつも娘役だったのに!)と年頃の娘の司葉子を巡って中年3人組が下世話に母娘共に再婚・結婚させようと計画するおじさん萌え映画の様相を見せながら、再婚話のちょっとした行き違いが母娘の喧嘩を生んで、結婚観や再婚が不潔かどうかという昨日の『麦秋』や『青春放課後』のような題材に。そこに颯爽と出てきた娘の友人岡田茉莉子が気っ風の良さを発揮して2人の仲を取り持ち、ここで主役は岡田茉莉子だったかのような活躍をみせる。そんな中、娘の婚前最後の旅行(旅館のセットが凄い!)に行った母娘はいつの間にか仲直りしており(この省略は非常に大胆)、母はこのまま一人で暮らすことを告げる(いつもは笠智衆の役)。それで次のシーンが結婚式の写真撮影のシーンで、小津映画を見ているものなら集合写真の不吉さにハラハラするところだけれどもここはなんてことなく幸福の象徴として描かれ、しかし撮影される対象だった娘とそれを見守っていた母は次のシーンで既に別離している。不在となった娘の穴を埋めるように再び岡田茉莉子が登場し、遊びにくるからと行って家を後にするが、母は憂鬱な表情を浮かべた後に少し笑みを浮かべ、映画は終わる。それにしてもラーメン食ってる机の壁の近さをはじめとしてありとあらゆるセットが不自然。どこからどこまでが指示なのだろうか。帰ったら蓼科日記やシナリオ採録を読みたい。やっぱりギャグは2回やるからギャグになるんだよなあ。
昨日に続き、見るものを優先して完全に昼飯・夕飯を食いっ逸れ、結局ケバブ。あと1日しかないっていうのに何やってるんだか。フランスらしい食事なんて1回しかしてないなー。明日も期待できないけど。日本食は別に恋しくなかったけど、小津映画に出てくるブランデーと鰻がたまらなくうまそうだった……。

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今日は写真がないので昨日のやつを。博物図譜のコウモリの羽を広げた骨格図のやつを参考にしてるらしいです。

5日目: 再びリシュリューへ

朝も早よから腰弁下げて、行ってきましたリシュリュー館。開館直後で一番乗り。腰弁下げたは嘘だけど、朝飯食べずに16時。デジカメ切れてはさようなら。ハイ、ごくろうさん。

毎日微妙な時間帯に終わるのでその後何しようか迷うのだが、とりあえずサンジェルマン・デ・プレからカルチェ・ラタンあたりまで歩き、クリュニーの裏の映画館が並んでる通りでグレミヨンの『白い足 PATTES BLANCHES』を見る。平日の夕方になんと満員で、みんな一生懸命見てる。いい観客だねえ。映画も言葉がわからなくても画を見てれば大体わかって、大変面白かった。グレミヨン作品を見たのは2つめなのだけれど、地形を使うのがうまい人なのだね。あと役者陣が役そのものになっている。そしてパーティーシーンの狂乱の楽しさとその背後で起こる事件。

とりあえず3日間のリサーチが終了。見ようと思ってた物の7割ぐらいは見れたけれど、あとは状態が悪いとかで見られないのだからしょうがない。ただもうちょっと見れば視野が開ける気がするので閲覧カードを延長しようかな。某Oさむ氏との合流が延びに延びているので、あと一週間、予定が空いた。どうしようね。

『おはよう』はフラ語で……。
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3日目: BnFと『グランド・ブダペスト・ホテル』

WiFi環境がよろしくないので結局昨日の写真はまだ上げられないのだが、昨日帰ったらBnF(フランス国立図書館)から研究図書室の事前認定の受領通知が届いていたので、今朝早くからBnFへ。BnFは中庭の上部(地上)にあるリファレンス・ライブラリーと地下(といっても中庭が掘ってあるので地下感はない)にあるリサーチ・ライブラリーの2つに別れていて、大人なら誰でも入れる前者と違い、後者は少々複雑な手続きをする必要がある。学生は指導教員の推薦書等が必要なようだが、私は一応講師である、という肩書きで日本から事前認定(pré-accréditation)を申請していた。送ったのが金曜なので、土日挟んで4、5日経って受領通知が下りたことになる。
入口の金属探知機と荷物検査を通って中に入ると、インフォメーションがあり、リサーチ・ライブラリーに入るカードが欲しいと言うと順番待ちの整理券をくれる。そして右手にある別の窓口に行って少々の面接を受けると(かなりびびっていたけどカードを3日にするか15日にするか、というレベルで、研究内容についてはさほど聞かれない)リサーチ・ライブラリー用のカードと簡単なインストラクションをしてくれ、利用料を会計窓口で払ってくれとのこと(日本ではありえないけど、有料なのです)。展覧会などと同じ会計窓口で8ユーロ支払う。
ここまででとりあえず地下への潜入許可が下りたことになるのだけれど、ここからも結構複雑で、まずクロークで荷物を預け、代わりに透明の肩掛けプラスチック・バッグをもらう(BnFのロゴ入り)。ラップトップやデジカメなんかも持っていって良いのだが、全部こっちに移し替える必要がある。それを肩から下げて入場ゲートでカードをかざすと、開けゴマ、という感じで重々しい二重の入場門が開く。中に入ったら長いエスカレーターがあって、下の受付で閲覧したい本を言うと行くべきブース(だだっ広い敷地の中は分野毎に大きく別れている)を教えてくれる。再びカードをかざして中に入ると、静まり返った回廊に出る。目の前には例の庭園があり、ロの字型の回廊の両サイドに分野毎の図書室がある。この時点でかなり感動だ。
私は「地理学」の分野だったので「M」の図書室に行って司書の人に欲しい本を告げると「本が到着するまで40分待ってね」と言われる。待ち時間のことはなんとなく知っていたので、備え付けのコンピュータで目録を検索していると、カード読み取り端末を使って本の予約から席の予約、読みたい本のリストの作成など色々なことができることが判明。嗚呼、わが母校の図書館もこれができたら!と無責任なことを思いながら調べ物をしているうちに40分経過。ようやく読みたい本とご対面。ここで「席は取った?」と言われるので「まだ」と言うと、相応しい席を取ってくれる。席にはEthernetケーブルと電源がついていて、建物全体で統一された木材でできたオリジナルのデザインの机と椅子である。いやはや、機能からデザインに至るまでお見逸れ致しやす。
で、結局読みたい本は申し込んでも「これは状態が悪いのでやっぱダメ」とネット経由で言われたりして今日のところはあまり成果が上がらなかったが、利用者カードを取得して使い方を覚えただけでも良しとしなければならない。「本の写真を撮りたいのだけど」と言うと、本ごとに1枚誓約書みたいなのを書かされて、撮ることができた。ちなみにリサーチ・ライブラリーのフロアにはカフェがあって、軽食を取ることができる。ちょっと高級っぽいサンドイッチ700円近くしたことには憤慨したが、文字通り背に腹は代えられないので、冷たい昼飯をむしゃむしゃ食べる。

昼食後、地上階に上がって「été 14(14年夏)」という展示を見る。つまり1914年、第一次世界大戦勃発前夜のヨーロッパの展示で、最初は「フランス人はこうやって自国の春を褒めるのが好きよね」と思っていたが、当時の多色石版のポスターの数々や政治情勢を皮肉った地図の数々は思いがけず面白かった。

16時半ごろ図書館を出て、隣接するmk2のシネコンを見てみると、ウェス・アンダーソンの新作『グランド・ブダペスト・ホテル』がやっているではないですか。昨日Pariscopeで調べたところ結構やっているところがあり、さらにはレトロスペクティブまでやっているところがあることに狂喜していたのだけれど、ここで遭ったが100年目、というやつでシネコンに飛び込む。最初誰1人いないスクリーンに入って「ほんとにここでやるのか?実家の近所でソナチネ見たときも2人はいたぞ?」と思っていたら結局最終的には15人ぐらいにはなった。で、どうだったかというと、喋ってる軽口の半分以上はわからなかったけれど、終わった後しばらく立ち上がれないぐらい凄かった。これぞコメディ、これぞ映画ですよ。あー、もう一回行こうかな。ウェスの最高傑作かもしれない。

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