9/4 MuCEM

マルセイユ。今日もとりあえず旧港まで行き、魚の直売マルシェを見つつ、地中海・ヨーロッパ文明博物館(Musée des Civilisations de l’Europe et de la Méditerranée / MuCEM)へ。昔の要塞から入り、そこから橋を渡って水面模様(もずく模様?)のファサードの現代建築へと入る。この模様はなんとコンクリート製。遠くから見るとまるで金属である。建物の中に入ると水面下から地中海を見ているような感じになる仕組みである。まあ、ハリボテといえばハリボテなのだが。

それにしても地中海文明・ヨーロッパ文明、と銘打つには如何なるコンセプトあらんや、と疑問に思っていたが、特別展を見る限り、ギリシャ、ローマ、エジプト、etc. を一緒くたに捉えて比較文化論的に展示する、ということのようで、一見面白そうに思えるが、それぞれ全く違う文化のものをあたかも「ひとつの地中海」あるいはそこに透けて見える「ひとつのヨーロッパ」のように捉えるのはいかがなものかと思う。エジプトはヨーロッパであった試しなどないし、何の知的戦略もなしにただ並列に置いてみただけでは何もわからない。実際展示も小さく、そこに「並べて置いてみた上で見えるもの」はなかったように思える。単にスペクタクル建築を建てて、観光客を呼び込みたい、という意図が先行し、内実は伴っていない。どういう経緯でこれが建ったのだろうか。少なくとも、カッティングシートの展示キャプションにライト以下のウェイトを使ったらうまく貼れないだろ、とは突っ込みたい。

美術館を後にして、サン=ローラン教会の方に歩き、名前はわからないが20世紀文化財扱いにされてあるアパルトマンを見ながら、カテドラル・ドゥ・ラ・マジョール(La cathédrale de la Major)へ。デュマの『モンテ・クリスト伯』の舞台にもなった場所らしく、関連スポットの場所が一覧となった地図が置かれているのが面白い。ところで作詞家の松本隆氏のナイアガラ関係におけるペンネーム「江戸門弾鉄」は、この小説の主人公の名前から来ていることを今更ながら知る。学がないと洒落がわからないんだよなあ。

そのまま旧慈善院(? La Vieille Charité)の方に歩き、妻が事前に(ダジャレじゃないよ)調べていたサントン人形屋を物色。待ってても終わる気配がないので周辺を散歩するが観光客向けの店しかない。もちろん我々も観光客なのだが、ヨーロッパの「観光客向けの店」はどうしてこんなにバカっぽい物しか売っていないのだろうか。もう少しあるでしょう、地域の特産品とか質の高い工芸品とか。地名書けば売れると思ったら大間違いだぞ、と言いたくなるが、買う馬鹿もいるのだろうな。

周りを小一時間歩いて戻ってみたところ、ようやく腹は決まったらしく購入するところだった。近所の移民系パン屋で超ゲスいピザ(一面に凝固した真っ赤なトマトソースがかかっていて、その上に一本だけアンチョビフィレが丸ごと乗っている)を食べ、南仏まで来て泳がなくては元スイミングスクール通いが廃る、と水着を買いに行く。既に9月で大半の店が水着を撤去していたため、いっそのことデカスロン(大手スポーツショップ)まで行き、購入。安くて助かった。

夜、パリの寮で会った友人Nと再会。シェアスペース的なカフェ(Association、だと言っていたがうまい和訳が見つからない)で飲みながら話し、彼女が上に住むことになっているというケバブ屋で食べて帰る。先のMuCEMは「欧州文化首都」というオリンピックの真似をした制度によってマルセイユが選ばれたために建てられたのだが、内実が全く伴っておらず、他の建物も建てられる予算があったはずなのに汚職はびこるこの街ではあれが建っただけで終わってしまい、住民は非常に不満だ、との話を聞く。我々が感じた違和感はそういう経緯があったからなのか。なんとも虚しいことだ。