モンス

2006年以来だから11年ぶりにベルギーはモンスに来た。ブリュッセルから新品のような電車に揺られてきたら、大ターミナル駅(の作りかけ)のような駅に着き、半信半疑で電車を降りる。何しろ駅名表示板もない。数々の地方都市を破壊していく悪名高き「欧州文化首都」に2年前に選ばれたからか、駅の反対側にはメッセ会場のようなものも見えるが、作りかけの陸橋の橋脚だけが虚しく斜めに生えている。プラットフォームの反対側に架けられた仮設の陸橋を登り、仮設の駅舎を横目に階段を降りる。

パリにいても家がないのでどうせならと2週間ここでオトレ関係のリサーチ。十年いない間にアーカイブもリノベされ、何冊かの公式本が出版され、バッジやTシャツまでできていた。資料のデジタル化が思ったより進んでいるのは驚いたが、何せオトレに関する資料だけでも千箱以上の書類箱があり、気が遠くなる。何も気が遠くなるのは物量だけではなくオトレの構想の途方も無い壮大さで、この頭が吹っ飛ぶような感覚に、何か懐かしさすら覚える。どういう環境で育ったらこんな頭になるのだろうか。

私だけかもしれないがいつもこういう調べ物のときは終わりがけにとんでもないブツを見つけてしまい、慌ただしく複写などしているうちに終わる。結局2週間では全体の地図ができかけたころに出発の刻が来てしまう。オトレの伝記を新たに書き直している某氏はこの間まで4ヶ月に渡って来ていたというが、そのぐらいでも全く足りないのだろう。人の生涯を書くというのはとてつもなく大変なことだ。