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シネマテークでマイケル・チミノ『The Sunchaser(心の指紋)』。これだけはDVDでも見ることの叶わなかった作品で(高すぎて)、今年7月に亡くなってしまったため結果的に長編最後の作品になってしまったが、ついにチミノは楽観的な作品を撮ったのか!とそれだけで手放しで喜べる作品だった。アリゾナの荒野をインディアンの駈る馬たちとキャデラックで並走する時、やった、チミノはやったぞ!とこっちが勝手に作り上げた物語の上での勝利を祝福したい気持ちになる。もう初めから失敗の分かっている苦い時間の中で、最大限魅力的に描き出された刹那的な幸福を楽しむこともないのだ。
平和な家庭のごく社会的な立場のある人たちが、ひょんなことからその社会の外で生きる人に振り回されることになるという点で自作『逃亡者』のやり直しでもあるが、今回は遥かに喜劇的。他の誰かが「狂っている」と思おうが、常識的なことのその先にしか幸福がない、あるいはそれを成し遂げること無しには「自分」が存在しなくなるのだ、という映画にだけ許されるのかもしれない信念に私は乗る。そしてそれを信じたものに、ついに奇跡は訪れた。「私はやらなければならないことをやるだけだ」という『シシリアン』のセリフは、チミノの作品に生きる人たちにいつも共通する生き方だった。それが『天国の門』のような惨劇になろうとも、人はやらなければやらないことをやるしかないのだ。
それにしてもチミノの撮る「山」の素晴らしいこと。『ディア・ハンター』で鹿狩りに行ったデ・ニーロが歩き回る、霧がかった山。『シシリアン』で義賊の頭領となったジュリアーノが「家」とする乾いた山、そして自らの土地としての山。そして『心の指紋』でついに辿り着いた、探検地図に出てくるような雄大な西部の山。山や斜面をこんなに撮ることができる現代の映画作家は他にいなかったのではないか。

続いて、初めて劇場で『シシリアン』(35mm)を見たが、あれ、アル・パチーノなんか出てたっけ、しかしかなり若くて痩せているな、そんなことを忘れるぐらい私の脳細胞は死んでいるのか?と思って見ていたが、エンドロールを見ると『バートン・フィンク』のジョン・タトゥーロだった。試しに「John Turturro Al Pacino」で検索したらそう思っている人たちも結構いて笑える。
冒頭から爽快な脱ぎっぷりでうっとうしいほど気取った口調で英語を話す、ファスビンダー映画のヒロイン、バルバラ・スコヴァ。どうしてドイツ系の俳優をイタリアを舞台にした映画のアメリカ人役に配役したのかわからないが、ドイツ系であることを抜きにすればかなりハマっている。それを超越するだけの力はある。ところで、ヒロインが小柳ルミ子似。