2/11-19

2/11
朝、フラ語。
昼、養々麺なるものを食べる。乾物の具入りの煮麺のようなもので、体に良さそう。
その後カフェで作業し、またスイスのCに会いに行き、悪巧みの成果を見にいく。夜は日本人の友人達と夕食。

2/12(金)
昼、カフェでスープとタルティーヌ。もう軽い料理しか食べる気がしない。しかし和食を作ったら食べ過ぎる。半ば病的。
帰って作業し、夜モーリス・トゥールヌールの『La main du diable(悪魔の手)』(1943)を見にCFへ。『ファウスト』的な寓話的コメディ。製作が素晴らしく、「悪魔の手」を手に入れた主人公が描く絵画作品がきちんと描かれていたり、過去の「片手」の持ち主が登場して自分の話をする件では幻想的な劇・人形劇・影絵の手法が用いられるなど、美術がとにかく凝っている。この時代におけるスペクタクル。

2/13(土)
夜フラ語の先生の家に行く予定だったが、先生がアンギナなる病気にかかったため延期に。夕方、友人のやってるカフェに行こうとするが、途中で友人がいないことが発覚。しょうがないので建築散歩する。マレ=ステヴァンス通りからギマールの建築群がある辺りを通ってオートゥイユへ。しかし雨が降ってきて、辺りも暗くなった為終了。ピザを食べて帰る。

2/14(日)
朝からル・アーヴルへ。ほんの一泊だがパリから出るのは久しぶりでそれだけで気分が楽になるを感じる。目的はオーギュスト・ペレが設計した戦後の再建区域。近代建築の歴史において建築家主導の都市計画が実際に実現した数少ない事例の一つであり、それを見ておきたかったことが理由である。しかしとにかく寒く、誰かのせいで断続的に雨に降られることとなる。駅から15分ほど歩くと市庁舎に出くわし、再建区域に入ったことがわかる。本当に見渡す限りコンクリートの建物が建っている。幸か不幸か世界遺産に指定され、建築散策ガイドも出来、あちこちでポップ・スターのようにペレが扱われてるところを見るとなんだか見ているこちらが恥ずかしくなる。フランスで近代建築を訪ねると全てがコルビュジエ中心で語られており、マレ=ステヴァンス、プルーヴェ、ペリアン、そしてペレもそれに準ずるのだが、それはキャッチーではあると思うがいい加減にやめた方がいいことの一つである。
マルシェ、サン=ジョゼフ教会、レジダンス・ド・フランス、海岸、アパルトマン・テモワン・ペレ(モデルルーム)、ノートルダム教会、サン=フランソワ地区、艤装業者の家などを見て歩く。宿で聞いたレストランで晩飯を食べてたら、犬と二人でバレンタインメニューを食べてた爺さんが近くで倒れる。みんなで起こして椅子に座らせるが、しばらくするとまた自力で立ち上がって帰ろうとするのでみんなで止める。これを5回ほど繰り返し、最終的には消防車が来て爺さんを連れて行った。この国では酔っ払いは消防士が連れて行くのか。

2/15(月)
朝、海風をモロに浴びる港の突端に建てられたアンドレ・マルロー近代美術館へ。建築は4人の建築家に4人のエンジニアが関わって建てられたそうで、プルーヴェ設計のアルミの構造体が目を引くが、照明計画が悪すぎて、ちょっとまともに作品が見られない。かなり残念な出来。どういう経緯で出来たのか知りたくなる建物であった。
昼、生牡蠣を食べてグラヴィル修道院(L’Abbaye de Graville)へ。昨日何の気なしに艤装業者の家でセット券を買っただけで何も知らずに行ったのだが、我々が打ち捨てられた修道院を発見したかのような錯覚に陥るほど、静かで落ち着いた場所にある手の加えられていない建物で、中に入ってみると中世の木・石の聖像が手の触れられる距離に飾り気なく置かれており、多くは頭部や鼻、腕や身体の一部を欠損しており、クリュニーの中世美術館の展示物がさらに身近に置かれているような場所である。管理人の黒人さんに聖堂の鍵を開けてもらい入ると、一層ひんやりとした静謐な空間がそこにあり、ここにも多くの聖像が置かれていて、11世紀の建築の中に我々だけがいるという何とも贅沢な経験を味わう。ブロンズ製の黒い聖母子の頭部が印象的であった。
夜の電車でパリに帰る。

2/16(火)
朝、フラ語。その後スイスのCの家で悪巧みの進捗を見た後、夕方には芸大の友人Sさんのオープンスタジオに行き、その足でフラ語の先生宅にお呼ばれする。先生はユダヤ系で、お母さんがよく作っていたという料理を振舞ってくれる。トマトとパプリカを煮ただけなのに非常に甘い。オーストリアの友人Pらと終電が過ぎるまで話し込む。

2/17(水)
昼、妻と一緒に国立図書館旧館地図部門に行き、転送前の数少ない資料を漁る。もうほとんどが見られないのであれこれ中断せざるを得ない。諦めた。
夜はCFにホウ・シャオシェンの『黒衣の刺客』のアバン・プルミエールを見に行く。いつも通り中二階に上がったらシャンパーニュの券を配ってる姉ちゃんに「招待されてない人はこっちじゃない」と言われ裏口に通される。言葉が話せないならセリフをなくせば良い。唐の話だがファンタジーなので日本を含む中国以外で撮影すれば良い。超絶技巧、超絶景、凝りまくった美術。二頭の驢馬をモノクロームで捉える神話的な冒頭は本当にホウ・シャオシェンの映画かと目を疑い、水墨画のような山を馬が行く様は西部劇。もはや本格的に見たことのない映画の領域に達したが、あちこちを彷徨する人物をカメラが追い続ける様はブレッソンの映画や『リミッツ・オブ・コントロール』を思い出させる。終わってしばし呆然とするが、皆スタンディングオベーションをし始めて、監督の顔が見えなくなったので仕方なく立つ。お前らこの映画本当にわかったのか?と言いたくなる。

2/18(木)
朝、フラ語。ランスでなぜか日本の茶寮に入り、抹茶を買って帰って毎朝飲んでいるというオーストラリアの子の話を聞き、抹茶は寺に行った時ぐらいしか飲まないし、強いから普段は煎茶とかを飲むのだよ、日本には茶道というものがあってね、云々と言ったのだが、別にいつ飲もうが構わないしそこから日本文化を知ることは良いことなので、ちょっと否定的に言い過ぎたかなと後で反省する。
夜、悪巧みが完成したというスイスのCの家に行き、2人で飲み更ける。

2/19(金)
朝、オーストリアの友人Fの手伝いでビデオ作品のプロトタイプに参加。光沢のある布を纏ったオブジェを背負い、ポーズをとる。
昼過ぎ、オーギュスト・ペレ設計のシャンゼリゼ劇場の訪問に参加。しかしリハが押しに押しているためなかなかホールに入れず、玄関で身振りの激しいガイドのお姉ちゃんが時間を引き伸ばすため建設の経緯やブールデルのフレスコ画等について喋り捲る。正味1時間以上話を聞く羽目に。かなり修復されてしまっていて玄関・廊下はさほど美しくなかったが、いよいよ入れた中はやはり美しく、鉄骨が可能にした柱のない桟敷席からリハを眺める。モーリス・ドニが下絵を描いたという薔薇の天井、その周りをぐるっと取り囲む同じくドニの描いた演劇の登場人物が集う楽園。
その後ベルヴィルで餃子を食い、リラに行ってアメリカの友人Jのライブ。道中に案内板が出ているぐらい、立派なジャズ系のコンサートホールであった。お土産に柚子胡椒を渡す。
終了後、家まで歩いて帰る。