1/31-2/2 去る者もいれば

1/31(日)
スイスの友人Cとその彼女Aと夕食を共にする。彼らはザンクト・ガーレン近くのアッペンツェルという町に住んでいて、かなり典型的な古い木造家屋に住んでいる。1日2回暖房の世話をしないといけないらしく、五箇山山荘みたいな暮らしをしているようだ。スイスのデザイン会社の労働環境について話したが、あちらもデザイン会社は同じような状況のようだ。過労死なんか信じられないと言っていた別のスイス人Mの話からすると意外。でもフランス人よりはスイス人の方が圧倒的に日本人に近い気はする。公共交通や町の中のシステムがしっかり体系化されていること、機械がちゃんと動くこと、デザインがしっかりなされていること、食肉の売られ方など共通点は多い。フランスの TGV のデザインって本当にひどいよね、という話で激しく同意し合う。
スイスには牛の慣用表現がいっぱいあるそうで、「牛の中のように暗い」という表現があることを教えてくれたが、なんで他でもなく牛の中なのかはさておき、「牛の中ってどの辺?」って聞いたら、「牛の中のどこかだよ」と言われた。
彼は〆鯖をいたく気に入ったらしく、定期契約を結んで毎週ポストに入れておこうか、という話になる。マグロやサーモンと違って鯖は破格に安いので、こんなので良ければいつでも作る。土手煮は「グラーシュみたいだね」と言っていた。作ってる最中、ブッフ・ブルギニヨンみたいな色だな、とは思ったが(ちなみにブルゴーニュの人は食べないのにパリでは馬鹿みたいに提供されているのがブッフ・ブルギニヨンである)。

2/1(月)
夜、アメリカの友人でドラマーのJがコンサートのため再びやってきたので日本食を振る舞う。本当は2月にフランスのバンドと制作したレコードが出るはずで、録音からジャケットのデザイン、各スタッフへの支払いまで全て終わっていたのだが、バンド・リーダーとレーベル・オーナーのテロをめぐる政治的論争の末、完全にご破算になったそうだ。いかにもフランス的だね、と話す。
私の〆鯖はついに鯖寿司へと結実し、最終形を見た。見た目がアレな土手煮、欧米人には意外と鬼門らしい「甘いじゃがいも」である肉じゃがも難なく「うまい」という彼は、いわしの金ごま和え、山椒昆布がやたら気に入ったようで「これは日本のマーマイトだ!これとご飯だけでいけるよ!」と喜んでいた。青魚が嫌いなアメリカ人は多いそうだが彼は全然大丈夫で、柚子胡椒はどこで買えるのか、シソはやばい、煎茶も麦茶も最高だ、と言っているので彼は日本人になれると思う。盆栽詳しいし。
シカゴの某美大は良い学校だが生徒が美術以外の教育を受けてこない場合が多く、全く本を読まないし全然物事を知らない生徒ばかりだそうだ。どこかで聞いたことのある話だ。アメリカは 99% アホだけどほんの一握りだけ教養豊かで見識のある人々がいて、そういう人たちは本当に素晴らしいのだけどと言っていた。

2/2(火)
朝、フランス語。低脂肪食品なんかまずくて食えるか!と先生が言うので「コカコーラ・ゼロ」という発想が嫌いだ、と言うと激しく同意される。「ヘロイン抜きのヘロインみたいだね」と笑う。オーストリアの友人Jと先生が Super 8 の話で紛糾していた。あれは家庭的で良かったのに、と。『Carol』の話をしかけたが、途中で終了時間が来る。「ダグラス・サークはちょっとキッチュだ(un peu kitsch)」と言うと、「めちゃキッチュだ(un peu BEAUCOUP kitsch)」と言われる。
夜、もう料理したくないのでチェーンのカフェでスープとパンだけ食べる。バターとチーズ、肉類に食傷気味。