8/23 ザンクト・ガレン、ブレゲンツ

スイスに来たからにはピーター・ズントー(Peter Zumthor)の建築を一つぐらい見ておきたいと思い、チューリヒから比較的アクセスの良いブレゲンツ(少しだけスイスから出てオーストリアである)に行くことにしたのだが、その途中にザンクト・ガレン(Sankt Gallen)の修道院図書館に寄れるということで旅程を組んだ。

しかし問題はまたしても物価。ここはスイス、鉄道運賃も馬鹿高いのである。ネットで見たときにはああ、普通の値段じゃん、と安心していたのだが、それは50%割引パス等を持っている人用のものだったらしく、実際は倍近い金額だった。しょうがないので我々は長距離移動日を3日間に定め、スイストラベルパスのフレキシータイプを買い、その切符の範囲内でなんとかすることにしたのだった。スイスにいると将来の身の危険を感じてゾワっとする。スイスに住んでると体感的には物価半分ぐらいだろうし、鉄道年間パスとか携帯電話の1年契約とか色々あるみたいだけど。
金のことばっかり言ってても始まらないので、朝からザンクト・ガレンに向かう。

ザンクト・ガレンについてみると、なんというか、専門的には言えないがグッとオーストリア・ドイツに近づいたような街並みになる。ウィーンに行ったのも10年前だから記憶は不確かだが、なんだか見覚えのある街並みだ。環状道路を横切って中心部に入ると、その真ん中に修道院がある。現存の修道院はバロック建築だがその歴史はかなり古く、7世紀初め頃まで遡るらしく、中世の本のコレクションにかけては世界有数のものだという。図書館内部は写真撮影禁止だが、いくつかのマニュスクリプトやインキュナビュラが展示用キャビネットに入っていて見ることができる。それに加えて部屋の一角に天球儀が置かれていて、これは約300年前にチューリヒの軍隊によって盗られた16世紀の天球儀らしいのだが、数年前に300年ぶりにここザンクトガレンに貸し出しされることとなり、その間に専門家を集めて分析し、精巧なコピーを製作したのだそうだ。当時の科学的知識の状況が随所から垣間見えて面白い。

ザンクト・ガレン滞在時間2時間ほどでブレゲンツに向かう。途中、国境近くの駅で乗り換えることになるが、ホームにあるオーストリア国鉄の自販機で難なく買えた。パスポート・コントロールも何もなし。しかも安い。着いてみればブレゲンツはボーデン湖の湖畔、言ってみれば河口湖のほとりの街のようだった。

ブレゲンツ美術館(Kunsthaus Bregenz)は前述のようにピーター・ズントー設計の建築で、コンクリートの巨大なキューブを半透明のガラスのスレート板が瓦のように包んでいる。内部の照明はおそらく外光100%ではなく(だとしたらかなり巧妙に内部に取り入れているが)、よくは見えなかったがディフューザーの役目も果たしている天井の曇りガラス板の向こうに人工照明も使われていると思うのだが、ほとんど色温度が外光に近く、やわらかい外光に包まれているような感覚を覚える。こけら落としがジェームズ・タレルだったのも頷ける。どのフロアもほとんど同じ空間で、打ちっ放しのコンクリート壁に額縁がかけてあるだけ。とてもシンプルだがとても贅沢な空間になっている。展示はアメリカのペインター、ジョーン・ミッチェル(Joan Mitchell)の回顧展。空間のせいもあり、とても良い展示だった。建物グニャグニャ曲げたりしなくていいんだよ。

ついでにとなりのフォーアアルベルク博物館(Vorarlberg museum)も見た。こちらは地域博物館なのだが、展示方法があまり良くなくて、展示品を新旧ごっちゃに展示するのは流行りなのかもしれないがやめてほしい。いくつかの展示品は興味深かったけど。特別展は、第一次大戦から第二次大戦直前までのオーストリアの芸術について。リホツキーのフランクフルター・キュッヘの模型が見られた。それにしても金のありそうな自治体だ。

1日だけのユーロ圏なので物価の安さに浮かれてビールやシュニッツェルなど食べる。日本の物価を考えれば決して安くはないのに、激安だと思ってしまうスイス・マジック。