8/22 リートベルグ美術館、クンストハレ

なんやかんや本日も出るのが遅くなり、昼前にリートベルグ美術館(Museum Rietberg)へ。ここは絹貿易で財を成したOtto Wesendonck(スイス亡命中のワーグナーに家を提供し、彼の若妻に恋に落ちたワーグナーが『トリスタンとイゾルデ』を書いたと言われている)の非ヨーロッパ圏の美術コレクションが元になっているところらしい。特別展のパプアニューギニアの美術のポスターが町中に貼られていたのだが、行ってみると「Welt in Farbe」という第一次大戦中の世界のカラー写真の展示が行われていた。フランスの銀行家アルベール・カーンが第一次大戦前後に世界中に派遣した写真家達の写真を展示していて、時期的に当然ながらコダクロームではなくてRGBのフィルターをかけて撮影されたカラー乾板、オートクロームなのだが、これが非現実的なほどに美しくて、ほとんど『ざくろの色』ばりの色彩、まさに「失われた世界」。上映されていたスライドショーには日本の風景もあり、我々の持たなかった写真による明治期のイメージを、外国人が撮影していたことによって書き換えられるという目眩がするような体験である。こんなに過去がみずみずしく見えるとは。ドキュメンタリーを見ていたらパリにミュゼがあるそうで、全く灯台下暗しである。仮面や壺そっちのけで小一時間魅入ってしまった。他に、状態の良い広重『名所江戸百景』『五十三次名所図会』『東海道五十三次』、北斎『さらやし記百物語』、中国南宋時代の壺・碗など素晴らしいコレクション。結構な量を見たしそろそろ終わりかと思っていたところに「Visible Storage」と名付けられたギャラリー兼倉庫に出くわし、じゃあ「Invisible Storage」はどんだけあるんだよ、と再び目眩。

その後クンストハレ(Kunsthalle)に向かう途中、いくつかの古本屋を見つけて入ってみる。既に昼過ぎでかなり空腹だったが古本屋を見れば吸い込まれてしまうのが悲しい性である。ハートフィールド、『芸術のイズム』、プライベートプレス等々。インゼル文庫の初期のものが安かったので思わず買う。

クンストハレはジャコメッティ、ホドラー、アルベルト・アンカーのコレクションが突出している。中でもホドラーの作品は初めて見るが、まるごと彼の作品に充てられた部屋があり、彼を知るにはとても良かった。他にもティエポロ、グァルディーニ、コロー、クールベ、ムンク、セガンティーニ等。モダニズムの展示はとてもささやか。アルプのコレクションとかないものかと思っていたが。外にはロダンの『地獄の門』。

夜、Mたちと再会し、普段はリサイクルマーケット(?)になっているという場所の何十周年かのイベントに行く。かなりご高齢のトリオによる廃品を使ったロックンロールのライブがあり(一人は亡くなってメンバーが変わったとか)、これがユーモアたっぷりで始終笑いっぱなし。スイスの人たちはクレイジーだ。帰り、日本人の中高年の人はこうやって夜踊りに行ったりしないよ、と言うと「じゃあ何やってるの。友達と飲みに行くの?」と言われ、「んー、あんまり夜外に出ないかな……。何やってるかといえばテレビ見てる……。」と答えたらオーマイガー、という表情をされた。