4/15 ルーベンス、プランタン、メルカトル

寒風吹きすさぶアントワープ。古都というイメージがあるが、それは一部のことで、泊まっているエリアはせいぜいここ5、60年ぐらいの建物だろう。街の中心は駅の反対側であり、こっちは何も無い。レストランすらなく、唯一近くにあるのが大手スーパー「DELHAIZE」とケバブ屋(出た!)という悲しいエリア。今朝も朝・昼食をどうしようかと歩き回っていたらビジネスセンターみたいなところにパンカフェがあったのでチョコパンとコーヒーで済ます(よく考えたら1000円ぐらいしてるけど見ないふり)。
駅で「シティ・カード」というお得な観光パスを買う。市内の美術館や教会のほとんどが1回だけ無料になるパスで、最初の施設の利用時から起算して24時間、48時間、72時間の3つの選択肢があり、私は48時間にした。昼から見始めれば2日後の昼まで見られるのは嬉しい。
それでガンガン回る気だったのだけれど、午前中はルーベンスの家で潰れ、午後は丸ごとプランタン・モレトゥスで潰れてしまった。ルーベンスはヨーロッパを回っていると本当にどこにでもあるし多くは弟子が描いているということなので価値が薄れてしまっているが、アントワープに来てみると、町中の教会や施設がルーベンスなしには成り立たなかったことがわかる。それほどルーベンスおよびルーベンス工房が社会的存在として重要だったことを考えれば、絵画的価値そのものを超えてルーベンスを評価することも可能だろう。父ブリューゲルやプランタンとの関わりから、アントワープにおけるある特異な時代が浮き上がってくる。
それで、プランタン・モレトゥス。もうこれが凄いったらなんの。まさにこの部屋で・こんな書物が・この活字によって・この印刷機で刷られた・しかもイラストレーションはこの銅版で・え、こっちは木版なの!?というのが全部実物でわかるわけですよ。そしてギャラモンやグランジョンの数少ないパンチが残ってる!もうアホになるんじゃないかってぐらいオリジンだらけで夢の国です。クリストフ・プランタンの作った書物の美しさと面白さといったら、過去の事例から勝手に「規則」を作り上げて「アレダメ」「コレダメ」のピラミッドを作り上げることがタイポグラフィーだと思ってる方々のご高説を頭から覆すような実験・工夫の数々。タイポグラフィーに興味の無い人こそ見て欲しいなあ。
しかも、し・か・もですよ。ここは印刷の歴史だけじゃなくてメルカトルやオルテリウス、フリシウスといった地理学・地図学の偉人達のホンモノのアトラスが見られるわけです(「アトラス」って最初に付けたのはメルカトルですよ!)。こんなの社会の教科書でも美術の教科書でも全く教えてくれなかったですからね。アントワープの土地を舞台にいろんな切り口で世界史が語れるというのに。ルネッサンス・フラマンド。ああ、胸のつかえが下りる。しかしオリジナルのギャラモンは美しいなあ……。ある部屋で流れてた当時の印刷を再現してる映像がなかなかケッサク。みんなコスプレしてやってるんだもの。どうしたって笑っちゃうよ。
まだ陽が高いのに17時になってしまい、周辺の教会やら何やらが閉まってしまったので、しょうがなくとぼとぼ帰ることに。日が沈むのは20時過ぎてから。この感じに全然慣れない。

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