第4回

『アイデア』誌連載第4回、普段より4ページ増量でやっています。前回と合わせてフンボルト編後編とも言える内容ですが、国境を超えた地球全体にわたる自然現象の分布とその連関を主題とし、その中で生活する生物たちの生態にまで言及した「自然アトラス」の話です。4年前にこれを見た時に衝撃を受け、右も左も分からない中でとにかく地図を見まくってきましたが、何とか形になりました。これを知らずに我々はダイアグラムだの何だの言ってきたことを大いに恥じ入ります。地図の上でのモダニズムは19世紀初頭から既に始まっていた!

アトラス考─生態学的世界観の視覚化:第4回
「ハインリヒ・ベルグハウスの『自然アトラス』─地球の物理的記述と視覚言語の冒険」

スイス

原稿終わりのタイミングでスイスの友人Cの家へ。
途中乗り換えでチューリヒで降りたため、3時間の間に急いで見られるものを見る。中央図書館の展示室ではヨハネス・イッテンの展示。イッテンについては日本の国立近美の展示を見た以上に掘り下げて調べたことはなかったしそれも10年以上前のことで忘却の彼方だった。ここでは小さい展示ながらも彼の青年期からの色彩・構成の実験や彼が使った教科書の実物を見ることができる。女性に宛てた手紙の中でゴリゴリに装飾的なカリグラフィーをやっていて、こんなのもらったら戸惑うこと間違いなしである。また後半部からは彼が神秘主義的傾向にのめりこんでグロピウスと決裂し(シュタイナーの人智学にも満足しなかったそうだ)、この地に開いたテキスタイル学校やチューリヒ美術大学の教官時代の資料に焦点が当てられている。一昨年訪れた非ヨーロッパ芸術の宝庫リートベルグ美術館の初代ディレクターであったことは全く知らず、その創設にも関わっていたことは白眉であった。後でカタログを読んだ友人も、自分が学んだ美大のカリキュラムの基礎を作ったのはイッテンだったことを知り、自らの地域にとって重要な人物だったということを噛み締めていた。機能主義ブームが完全に去った現在において今イッテンを思想面を含めて見直す時に来ているのかもしれない(昨年が没後50年に当たり、今年は生誕130年でもある)。図書館を出た後はチューリヒ大学の自然史・古生物学博物館で恐竜の化石に見入った。これでは年中恐竜博ではないか。しかもこれら2つの展示は無料で見られてしまったし、イッテンの図録というか小冊子もタダでもらえてしまった。物価が高いので非常にありがたい。
Wald に住む友人Cは我々をサンティス山やアッペンツェルの地域博物館に連れて行ってくれたり、ザンクト・ガーレンでの図書館での調査を手配してくれた。非常に時間は限られていたがチヒョルトのアーカイブを再訪できたし(友人は彼の往復書簡を読みながらその辛辣というか皮肉というか攻撃的な書きっぷりに爆笑していた)、そのまた友人に頼んで美術図書館・造形素材アーカイブ・美術工場の複合施設を案内してくれたりした。いつも帰り際にまた来なくてはいけないという理由ができてしまう。むしろこれだけ手配してくれたのにすぐ帰ってしまって申し訳ないぐらいだ。じっくりと滞在できたらと思うのだが現実的にはしばらく厳しそうだ。しかし彼らには客人を神のようにもてなすべしという教えがあるらしく、油断するとすぐに高い食費や入場料などを払ってくれてしまったりするので、あまり厄介になるのも気が引ける。日本に来たらどこに連れて行くべきか今から考えあぐねている。
スイスでは日本車についての賛辞を聞くことが多い。車に乗っているとメルセデスやフォードに混じってスバルが走っている。トヨタも多いがそれよりもスバルが多い印象である。山道でも壊れずよく走ると評判だそうだ。決して日本ではシェアが高くないスバルがメルセデスらと競って走っているのを見るとなんとも誇らしいやらむず痒いやら複雑な気持ちだ。