2/15-2/22

スイスより友人カップルがパリにやってくる。いつぞやのように通じるかどうかギリギリの拙いフランス語で冗談を言い続ける。彼らと一緒に入ったサントル・ポンピドゥーでは常設展の半分が入れ替わっていて、なんだかロシアじみたものになっていた。その一室にロトチェンコの労働者サロンが再現され、長机の上にマヤコフスキーやリシツキー関連の書物が並べられる。他にもやたらと政治、革命関連の作品に焦点が当てられていて、ファシズム建築家リベラの部屋もあった。各部屋に主題が設けられているがしかし展示全体の一貫性があるかというと疑問である。それ以外ではカンディンスキーの未見の絵が素晴らしく、それからミロとブラックの作品を初めて良いと思えたのは収穫だった。相変わらず展示方法はひどいが作品に罪は無し。特別展のサイ・トゥオンボリーについてはノーコメント。

我が家に招いて寿司を食べた翌日、帰国する彼らに付いて行ってアッペンツェルはヴァルトという村にある家に泊まらせてもらう。標高 1,000 m にある200年前の木造家屋。夜明けから夕暮れまで嘘のように美しい、残雪の丘陵地帯。5日間方々に案内してもらいさんざん世話になったが、幸運かつ奇妙な出会いの連続であった。あまりにも多くのことがあったためここで文章にする気にはなれない。とにかくスイス・アルマンのいいところを存分に見せてもらった。隣人の農家の作るチーズも極上。

2/11-2/14

2日かけてフォンテーヌブロー城、シャンティイ城を再訪。よりにもよって極寒の2日間。翌日には嘘のように暖かくなる。

ル・ノートルは素晴らしいというより狂っている。この規模で庭園を設計しようなどと誰が考えるのか。

シャンティイ城の図書室。小さな部屋だが珠玉の書物史の展示が行われている。これは前回特別展がやっていたため見られなかったものだ。ルリュールの名品が並ぶ。ファクシミリしか展示されていない『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』はしかるべき手続きを踏めば見られるのだろうか。ここの蔵書はもっと古い当主のものだと思っていたが、フランス最後の王ルイ=フィリップの息子、オマール公アンリのものであった。つまり19世紀のものである。

1/29-2/10

冬至がとうに過ぎたにもかかわらず、相変わらず寒くて暗く、根菜ばかりで鬱々とした日々が続く。思わず「春よ来い」と呟くが、それが童謡なのかはっぴいえんどなのかうろうろしているうちにニューミュージックの女性歌手の歌声が思い浮かんで、思考を遮断する。

イタリア系フランス人の友人Bがラザニアを作ってくれる。ベジタリアンなのでマッシュルームと乾燥セップ、それにトマトとチーズで旨味を出していて、肉よりうまいかもしれない。その後は別の友人Bの檸檬のタルトを食べて、別腹も別々腹も満腹になる。それに今まで一番うまい香菜(コリアンダー)を食べた。夏に格別のバジルやトマトを作るいつもの市場のおばさんのもの。イタリア人はあまり食べないらしいがフランス人はよく食べるとのこと。香菜嫌いな嫁は顔を歪めて軽蔑するような眼差しでこちらを見ていた。

2年ヨーロッパにいながらイタリアに行っていないこともあり、俄かにイタリアへの情熱が湧き上がってくる。フランスにいいものはたくさんあるが、やはりその根っこはイタリアにあるから見に行きたくなるのが人情である。しかし旅行をしようにも行きたい所だらけで絞り込めず、やるべきことも終わってないので3月までには行けそうにはない。唯一それを紛らわせるのは遂に訪れたまともなイタリア料理屋との出会いである。ラビオリもニョッキも簡潔かつ美味。そしてやはり珈琲はパリであってもイタリア料理屋のものは飲める。パリのコーヒーは昔は美味しかったというが、現在はある珈琲豆製造業者がパリのカフェへの卸をほとんど独占していて、その珈琲が砂糖を入れないと飲めないほど美味しくないのである。どこで飲んでもまずい。そこの豆を仕入れると機械やら食器やらがもらえるとか、店舗を開くのに補助金が出るとか、いろいろ聞く。真相は知らないが、とにかく競合相手は出てこないのか?まるでマフィアに牛耳られているようだ。