6/12-14

詳細に書いた日記が消えてしまって非常にショックなのだが、要点だけ書き記そうと思う。

6/12

早朝ゲントに向かうためにメトロに乗るが、技術的な問題が発生とやらで降ろされる。しばらく待ったがTGVに乗るのに危険な時間帯に差し掛かってきたのでタクシーに賭けることに。似非先進国め。渋滞もなくギリギリでTGVに滑り込む。

まだ朝の時間帯にゲントに着き、街並み、大学植物園、公園の銅像などを見ながら無意識にパリと比較していることに気づき、外国に来たのだと思っていることが(つまりフランスがホームになっていることが)少し嫌だった。

一時間ぐらい散歩した後にゲント美術館に辿り着く。ジュリア・マーガレット・カメロンの展示。言わずもがな素晴らしい。写真を積極的に撮っていた20歳前後の頃、写真史の本で小さく扱われていた鈍いピンボケしたような女性のポートレイトが彼女のもので、妙に心に引っかかっていたのだけど、先日のフラ語の授業で友人のEがこの展示のことを話し、約10年以上ぶりにそのことが蘇ったのだ。人に見せられるようなものではないものの私の人生の中で写真はいくらかの部分を占めていて、経済的な事情や効率性からデジコンで無制限に写真を撮るようになってから諦め半分で撮る写真に退屈さを感じていたここ数年間に、ふとアジェ、ザンダー、カメロンといった写真史的マスターピースへのアクセシビリティが到来したことで、ふつふつと何かしらの感情が私の中に湧き上がるのを感じる。大人としてこの感情をどう受け止めるべきか、私にはまだわからないけれど、そのことを呼び起こしてくれたこの展示と友人に感謝したい。

ほぼ寝ていなかったため美術館のソファで巡回警備員の目を掻い潜って爆睡。別の友人の薦めるレストランで昼食を摂ったあと、ホテルにチェックインして爆睡。起きたら22時で、全てが閉まりかけている街を回ってハンバーガーにありつく。帰って再び爆睡する。

6/13

朝重い体を無理やり引き起こして教会、伯爵の城、デザインミュージアムを回る。ミュージアム近くのカフェでふと目に入った新聞にヘルマン・ツァップの一面記事。見れば没年が書いてある。彼が死ぬこと自体考えたこともないぐらいタイムレスな存在だったのだが、ひょっとして近々亡くなったのだろうか(後で妻に確認すると一週間ほど前に亡くなったとのこと。合掌)。

フリーパスに付いていた運河クルーズの特典の恩恵に授かり、パリで嫌悪しているボートツーリズムにてゲントの町並みを見たり、Copyrightという素晴らしい建築・デザイン書店で小一時間過ごしたり、ゆったりとゲントでの時間を過ごすが、悲劇はこの後やってくる。非常に笑えない話ではあるが、お土産を買おうと入ったショコラティエにて自分用に買ったチョコチップアイスを食べた途端、神経を抜いて仮止め中の歯が割れたのである。恐ろしく意気を削がれた私は、ホテルに帰ってレセプショニストのおばさんに歯医者や救急病院に電話してもらったところ、明日の九時まで待つしかないとのこと。意気消沈してもはや何もする気になれず、部屋にて寝る。

 6/14

朝になり、少し歯茎が疼くものの痛いというほどでもなかったことに安心しながら、シフト交代したレセプショニストのおじさんに病院に電話してもらうが、痛くないならやめとけ、300 ユーロかかるし、と言われ、もう諦めることにする。かといってもう何もする気になれず、切符を買ってしまったのでどのみち行かなければならないブリュージュに行き、歯に優しいカフェのスープランチをありがたく食べながら手紙を書いたり最近のことをまとめたりしながら過ごす。ベルギーは何しろカフェが素晴らしく、古臭いパリと比べたら遥かに現代的で「デザイン」がちゃんと確立されて浸透していることを感じる。物価も安いし最高である。もはや観光する気にはなれず、マイナーな通りを散歩してふらっと無人の教会に立ち寄ったり雑貨屋で安い皿を買ったりして夜を迎え、TGVにて臭い街に帰る。懐かしくも何ともない。

6/8-6/14 受難

6/8
友人に展覧会のフライヤーを頼まれたはいいが、納期がたったの1日で、せっせこプログラム書く。

6/9
シーツ交換、フラ語、月イチ恒例レセプションパーティー、フライヤー打ち合わせ、村山さんとギオネさんのコンサート、展覧会メンバーの討論会、等々忙しい日。フライヤーはとても好評。寮のコミュニケーション担当のCに聞いたところ、こちらのデザイナーは修正をお願いしても「俺の作品だから嫌だ」という人が多いらしく、トラブル続きで依頼するのをやめたそうで、素直に修正した私は「素晴らしい!」と褒められた。まあ外国人なので勝手がわからないのでいくらでも修正しますよ……。

6/10
午前中、B銀行の口座開設のための面談に行ったが、「寮とのパートナーシップは終わった。公共料金の領収書がない人は作れない。ごめんなさい。」と言われる。大学にもらった説明書に書いてあることがことごとく out of date だな。一週間近くも待ったのに!寮に聞いたら「L銀行にしろ」とのこと。行ったら再び「一週間後」と言われた。なんでそんなに人を待たせるのに従業員を増やさないのか、まったく理解不能。この件に関しては理解停止しました。
昼過ぎにK原さんのアトリエでwebの打ち合わせ。建築関係の情報を沢山いただいた。こちらの人はこうして普段から「あれは行った?これ知ってる?」みたいに情報交換をする。ウェブより口コミの世界。オフィシャルな情報もたいてい間違っているか、気まぐれのように変更される。そういう意味では人的ネットワークが重要のようだ。
帰ってまたフライヤーの打ち合わせ。

6/11
フラ語の後、再度フライヤーの手直し。市立施設のオフィシャルなレターで、スポンサーも付いているのでレギュレーションがボークーボークーである。日本から来た急ぎの仕事もあってこの一週間とても忙しかったが、夜お礼に近所のバスク系バーに連れて行ってもらった。全てが美味しく、楽園のようだった。パラディーソパラディーソ。

6/12-14
いろいろ書いたのだが消えてしまった。
要約するとゲントに行ったら歯が割れた。

6/7 撮影日和

日中、チリのフォルクローレを聞きながら作業。先日友人が歌っていた曲がわかった。作業もひと段落。
夕方から友人Jのパフォーマンス撮影の手伝いでルーブル、凱旋門、エッフェル塔をはしごする。日本の友人H、モロッコの友人Aと彼の母親、スペインの友人Nも参加し、とても雰囲気良く撮影が進む。こうやって誰かが招集をかけたらガッと集まってそれぞれのプロフェッショナリティーを発揮するところがいいところだなあ。身分が担保されている今だから気軽に手伝えるのかもしれないけど。日本にいたら忙しくてなかなか手伝えない。撮影してたらルーマニア人のマジシャン/ラッパーに話しかけられて、YouTubeの動画を見せられ、なぜかエッフェル塔によりかかった記念撮影までさせられた。
そのままエッフェル塔前の公園にて飲もうとしたが急に冷えてきて退散。帰ってベナンのラッパーBのスタジオにて飲む。

6/5-6

6/5
主に仕事。
夕方、洗濯の行きがけに逢ったモロッコの友人Zに、部屋に連れて行ってもらい作品を見せてもらう。信号機のデザインをしてコピーライトを取ろうとしているそうだ。聞いてみたらすごく若くて驚くのだが、毎日とても真面目に仕事をしていて、いきいきと自分の作品について語ってくれる。私はその若さをどこに置いてきたかな……。
夜、バスクの友人Pの誕生日パーティーだそうで、やることはあったが顔だけでも、ということで行ってみる。行ってはみたものの定時に全く始まっていなかったどころか片付けも住んでいなかったスタジオは、モロッコの友人たちの手であっという間にパーティー会場に変わる。既にほろ酔いのPが到着し、パーティーが始まる。昼間34度で急に夏がやってきたが夕立で一気に20度近くまで下がったこともあり、今までで一番雰囲気の良いパーティーで、集まった人たちも皆優しい物腰の人たちばかりであった。終わり際、チリの友人Fによるフォルクローレの演奏があり、私はほとんど泣いていた。さすが国際芸術都市だ。
4月に入居して今月で帰ってしまう友人が多く、「お前はいつまでいるんだ」と言われ「1年だよ」というと「まじで!?クールだな」と言われることが多い。今月はオープンスタジオラッシュで、こちらも気だけは焦る。

6/6
午前中、マルシェ。午後、図書館にて作業。それにしても晩飯の材料を買うのに3箇所も4箇所もぐるぐるしないと揃わないのはなんとかならんもんか。その度に立ちションの匂いを嗅いで「ファック!」って心の中で叫ばなければならないのもなんとかならんか。

 

6/3-4 寿司と歯医者

6/3
昼間、調べ物。
夜、ピクニックのために巻き寿司の練習する。失敗。

6/4
フラ語。「昨日寿司作った」って言ったら「日本人は毎日寿司食うの?」って言われて「高いから食わないよ。一番高いところは200€ぐらいするよ」と言ったらまじか、という感じになった。そこからなぜか「日本人は麺類食う時ズルズル言いながら食うけど、あれは熱いからでしょ?」と言われ、「熱い時にするのはフーフーで、ズルズル言うのは熱かろうが冷たかろうが一緒」って言うと、まじか、ありえん、みたいな感じになった。とにかくジェスチャーだらけでバカみたいな会話だった(笑)。
最大の懸念事項だった歯医者。こちらに来る前に歯の詰め直しをしたのだけど、中で虫歯が進行していたらしく(M小金井の駅前歯医者め!)、歯の神経を抜かなきゃならんかもしれん、そうなったらフランスでやらなきゃいけないよ、高いよ、と脅されていたので恐る恐る日本語が話せるハーフの歯医者さんに電話し(受付は英語)、ようやく今日に至る。結構遠かったので遅刻気味だったのだが、建物に入ったはいいものの受付らしき場所が閉まっていて、まさかフランス人でも患者を置いて帰るほど適当じゃあるまい!と思い焦りながら辺りを見回したら「2階」って書いてあった。電話までかけてしまって、すんません。
で、行ってみたらとっても綺麗な近代的な設備の歯医者さんで、受付、問診してくれる人たちも丁寧で、先生の日本語は私より上手だった。問題の治療は詰め物を取ろうとしたもののそれさえ痛むので、やっぱり神経を抜かなければいけないらしく、何重にも麻酔をかけられて神経を抜いてくれた。麻酔と待ち時間に時間がかかったが、治療自体はすぐ終わり、万が一の痛み止めの処方箋をもらって帰ってきた。来月もう一回行くことに。
日本と違うのは
・うがいマシンが無い。水道で自分でうがいする。
・レントゲン室が無い。というか処置室=レントゲン室なのか、放射線マークが貼ってあった。
・助手(歯科衛生士)がいない。
・麻酔がきつい。
・処方箋はどこの薬局でもいい。
・支払いは治療が完了した次回。
半日経った今でも麻酔が効いてるのか神経が腫れてるのか、顔の半分がぼんやりしている。仕事のメールが来ているが、悪いが今日は寝させてください。

最近思うのは、いいやつの作品は、いい。

5/29-6/2

5/29
昨日教えてもらったJNのコンサートへ。場所は Barbes – Rochechouart という北駅近くの移民街。「めっちゃアンダーグラウンドな場所で、入ったら最後、中から鍵閉められるから帰れないよ」って冗談交じりに言われてたのだが、行ってみたら本当にその通りで、看板なし、廃ビルのガレージから入って地下3階ぐらいまで降りるというフィジカルにアンダーグラウンドな場所だった。どうやら早く着きすぎたらしく、演者以外誰もいない会場にて1時間以上待つ。そのうちちらほら人が集まり、結局10人ぐらいになった。内容は即興のデュオ、ソロ、カルテットでジャズ風味だったり音響系風味だったり、それぞれだったけどなんだか懐かしい気持ちになった。友人の演奏はとても良かったので、是非今度ソロを聴いてみたい。他人とやる時とは全く違うスタイルらしいので。帰り際、女性オーナーに「楽しんだ?」と言われて「もちろん」と言ったら「もちろん?『もちろん』じゃないのよ」と言われる。多分、楽しまない人がいっぱいいるから、「もちろん」じゃない、という意味ではないかと思う。

5/30
午前中マルシェ。
夜、こちらに来て初めてカレーを作る。近くの調味料屋が有名な場所だったらしく、行ってみる。ただしスパイスは1年在住の身には多いし、お安くないので個別に買うわけにもいかず、カレー用のミックスを買う。香りが強くてとても良い。

5/31
誘われてジヴェルニーのモネの庭に行く予定だったが、雨なので中止し、『Fantastic Mr. Fox』を見る。3回目だが、これは『グランド・ブダペスト・ホテル』に勝るとも劣らん冒険だと思う。
最近疲れ気味である。

6/1
今日からパリ生活3ヶ月目。生活にはもう慣れたし社交はもうほどほどでいいや、という気持ちで今日からブリブリ行動することにする。行動といっても見たいものを見て、勉強したいものを勉強して、作りたいものを作るだけだが。
今日はシャンティイ城(Chateâu de Chantilly)に行くことにする。ここの領主は愛書家(bibliophile)らしく、1万点以上のマニュスクリプト、インキュナビュラ等を所蔵している。中でも『ベリー公のいとも豪華なる時祷書 Les Très Riches Heures du Duc de Berry』を所蔵しているというので、ひょっとして見られるのでは?という思いで行ってみた。パリ北駅から約20分。そこから森と競馬場横の芝生の中の道を通って約30分、城に着いた。城はヴェルサイユに比べてとても小さいが、金持ち趣味過ぎず、程よい広さをしている。庭園はとても面白い形をしていて、空撮で見るとよくわかるが軸線の左右にシンメトリックに池、噴水が構成されている。城に入っていきなり左にあった図書室は、展示こそやる気がないものの、本棚は本好き、特に製本好きにとっては夢のようなところだ。素晴らしいルリュールの作例がゴロゴロ転がっている。結局『ベリー公』は見られなかったのだが、学芸員に相談次第で蔵書は見せてもらえるそうなのでいつか出直そうと思う。『ベリー公』が見られるかどうかはわからないが。数年前には企画展として公開されていたらしいことを売店のポスターにて知る。併設の馬博物館はほぼ厩舎だった。
夜は寮のオーディトリウムで友人KVのクラシック・コンサート。激情の表現がとても得意なのではないだろうか。クラシックには明るくないが、楽しんだ。

6/2
午前中、フラ語。本当はピクニック授業の予定だったのだが、寒いので中止に。アメリカの友人より初期の写真史に名を残すジュリア・マーガレット・カメロンの写真展がゲント(フランス語だと「ギョン」みたいな感じ)でやってると聞く。この講座のいいところはこういう美術方面のことについて話し合えることで、思わぬ情報を得ることも少なくない。
夕方、寮のギャラリーにて日本の版画工房/画廊とフランスの交流展のオープニング。こんなに日本人を見たのは久しぶり也。
夜は念願のモノプリ(スーパー)のカレーを食べて満足。

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Jacques Bellange

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Alexandre-Gabriel Decamps “Souvenirs de la Turquie d’Asie, Enfants tures jouant avec une tortue”

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Jean Fouquet “Livre d’Heures d’Étienne Chevalier”

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Raphael “Madonna de Orleans”