何かに間に合わなければならないかのように爆走するタクシーの中で、何度か時計に目をやって焦燥を示しながらも、対抗する車や自転車、果ては牛だかヤギだかまでを急ハンドルでかき分けて右へ左へと激しく揺られることにいささかおののいているビジネスマン風の男は、ようやく着いた駅の前で非情にもタクシーを乗り捨て、両手にスーツケースを抱えながら、今まさにホームを出発してしまった電車に追いつこうとひた走る。しかしどうやら追いつけそうもないといった様子をキャメラの運動が示し始めたその瞬間、横からそのビジネスマンを涼しげに追い抜くヤサ男が登場する。そう、人は、この映画の主役は冒頭から数分間映し出されたビジネスマンではなく、今追い抜いたヤサ男の方なのだと確信し、そして彼はゆるやかなスローモーションで列車に飛び乗って列車の最後部から乗り遅れたビジネスマンに視線で無情を示す。そして列車の最後部には「the Darjeeling Limited」、つまりこの映画のタイトルが既に映し出されている。BGMにはキンクスの「This Time Tomorrow」が流れ、ここから三たび三兄弟の物語が始まる。あるいは家族の物語。コテコテの作りもの、直接ストーリーには関係ないカツゲキ的逸脱、端々で交わされる一見見逃しがちな会話や行為が少しずつつながりを見せ始めいつしか全体として体系をつくり上げるという超ポストモダン的(?)な脚本、そしてラストシーン近くの四度目(か?)のスローモーションで流れるキンクスの「Powerman」!電車には石を投げろ!スーツケースなんか捨ててしまえ!帰りの飛行機になんか乗るな!と諸手を上げて興奮した「ダージリン急行」二回目でした。
ええ、私は夏からサントラを聞いて待ち望んでおりました。「テネンバウムズ」がヴェルヴェット・アンダーグラウンドかビートルズの映画で「アクアティック」がデヴィッド・ボウイの映画だとすると今回はキンクスとサタジット・レイのサントラの映画。イナミの兄貴、見て下さい。個人的にはエイドリアン・ブロディにシビれました。
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